葱の花

2007年5月25日
  
    葱の花 拳は天に まっすぐに

  この町は、梅田まで電車で30分なのだけど、あちこちに田畑が残っていて、わたしの家からも畑が見える。
  
  腰のかかんだおじいさんが、幹線道路を越えて自転車でよろよろやってきて、ゆっくり、ゆっくり、ていねいに世話をしている。
  今は、玉葱、その前は、いちご。
  育ち始めたのは、茄子。伸び盛りの胡瓜。
  草を刈り、水をやり、おじいさんは、野菜たちを、ほんとうにたいせつに、手塩にかけて面倒をみている。

  なのに、その畑の中に、空き缶を放っていくやつがいるんだなあ。
  おそらく通りすがりのやつだと思うけど。
  夜、何も考えずについ、ってところだろうけど。
 
  なんとも腹の立つこと。

  

つばめ

2007年5月24日コメント (3)
   
   つばめ つばめ 切り取る空の青きこと

  引越しをした。

  のんびりした町だ。
  
  軒先につばめが巣をかけても、汚すからなどといって落としたりはしない。
  逆に、巣の下に板をあてて、頑丈なつくりにしてやっている。

  数日前には、巣からやっと顔が見えるほどに小さかったひなたちが、さっき見たら、ぐんと大きくなって、せりあがったかたちの胸元まで見えた。
  巣立ちは、いつだろう。
 お前は一体どう思って居るんだろう

 まさかカロリやお金のことばかりではないだろうね
 
 朝、台所一杯に幸福な味噌汁の香が漂っているし
 
 橙色の霧の夜に唇向けているLIPTONや
 
 西洋人参・しゃりっとした霜の白菜が見え

 卸し金の薯なんか高原の山羊のよう従順だねえ

 食べる割に一向肥らぬなんて冷やかすけれど

 僕の食うのは色彩や匂いや夢なんだよ
 
 苦い鮎は奇麗な小石の河で捕れるんだって?

 菫色の夕方、濁り水と共に暮れて行く時

 ポチャン、此奴が膜面にトオキーとなって跳ぶんだね

 そう、ぶらついてなんか居ずに帰るんだっけ

 浜のおばさんの刺鯖いらんけやで想い出したが

 さしさばでけなるい(AVECで羨ましい)

 なんか言われたっけ、言葉も好いと思うね

 それにしてもお前一体どう思うの

 深雪の層より暖か、裏日本のズワイ蟹よりもしろい

 お前のぽってりしたお乳なんかは

 それも二つ平然と隠しているなんて

     昭和15年1月 同人誌「蝋人形」より
     西条八十選 
             <作>川上 高
       
  

    コスモスのみつめる先が 風のみち

  
  絶対に目に見えないはずのものなのに、確かに見えたと思うことがある。

  だから、
  
  目に見えないからといって、それが存在しないと決めつけることは、できない。    


    

葡萄

2006年9月29日
    ひとつぶ ふたつぶ 葡萄の甘さ罪深き

 
  いいえ。
  葡萄に罪はないのです。

  口に入れてしまう自分に罪があるのです。

  これでやめておこう、
  これで最後にしようと思っているのに、
  そう思うはなから指でつまみあげてしまう。

  意志の弱さを葡萄のせいにしてはいけないのです。

秋の空

2006年9月22日
  
  
    天女ひとり すくいあげたる秋の空

  セオリーに乗っ取ってそれなりに技術を駆使すれば、考え方の共有は、できるかもしれない。

  でも、感じ方を共有することは、不可能だ。

  意見と、感想とは違う。

  生理的に受け容れられないものを、無理に受け容れろと強制することはしたくない。されたくもない。

  それでも、相手の好きなものを自分も好きになりたいと思えば、相手を理解するために、相手から、感想ではなく、意見を聞きださなくてはいけない。
  そのためには、お互いに冷静になる必要がある。

  人間は感情の動物だ。会話に使った助詞ひとつでも気分を害することがある。
  相手が真のパートナーであるかどうか見極めるには、そこを乗り越えられるかどうかにかかっているのかもしれない。

  
  最近は、バトンをいただかないと書き込みをしないのか、といわれそうですが、すみません。

  みかりんさまから、夏の初めくらいにいただいてたバトンを、秋の気配が感じられる今頃になって書きます。
  みかりん、遅くなってごめんなさい。
  あなたが、都会の真ん中で麗しい乙女ライフを送っておられるころ、わたしは田舎の川沿いで、
  「都に遠く雲閉ざすー」
  という、ものすごい歌詞(しかも出だし)の校歌を歌いながら、乙女と呼ばれる季節を夥しい数の渡り鳥と共に過ごしていたのですが・・・せっかくなので。。

  ○乙女バトン。
   連想される言葉を→の横に書いてね。

  ☆近付きたいから→遠ざかる。
  ☆好きだから  →大キライと言ってみる。
  ☆愛しいから  →前髪をくしゃくしゃにする(男子に多い)
  ☆可愛くて   →無視する(やっぱ男子じゃん)
  ☆恥ずかしくて →バカ笑いする。
  ☆会いたいから →時間割など調べてみる(この辺が共学)
  ☆見て欲しいから→ひたすらみつめる。
  
  そう、わたし、実は中身は男っぽかったりするんです。。

  みかりん、ごめんね。

        
    

     くちなしのひらけばやがて降り始む

  この季節に咲く花が好きだ。
  紫陽花、くちなし、芙蓉。
  どれもたおやかで、清らかに花開く。

  かわいらしさは春の花に及ばず、盛夏の花のような派手な勢いにも欠ける。
  だけど、ひっそりと落ち着いたたたずまいで、ソワレをゆっくりと脱ぐように花ひらき、見る人を酔わせてくれる。

  こういう花々に心惹かれる自分を、大人になったのだなあ、などと思う。
  悲しいことも多かったから、少し自分をいとおしんでみても赦されるだろうとか。

  
 今度は、あなたが異性になったら、ということで。

 わたしが、男か。
 両親が結婚するとき鑑定した占い師によると、
「男だったら、赤軍派に入るような子供に育ちます。」
 と、いうことらしい。

 それは、ともかく。

 ○朝起きて最初にすること。
  顔を洗う。
  性別が変わったって、寝起きの悪さは免れまい。

 ○どんな仕事に就いていますか。
  なりたいのは、国語教師ですね。
  あるいは、弁護士。
  ひとつ間違えて、詐欺師。
  時代が変われば、活弁士。
  
  日本語をつかって、ある程度のハッタリをかませるような男になっていたいぜ。

 ○どんな相手と付き合いたいか。
  女を相手にするのは嫌。

 ○自慢できるところ。
  くどき文句を思いつくのがうまい。
  ただし、自分ではつかわない。
  友人に指南する。
  で、密かにその友人(男)に憧れていたりする。

 ○どんなかっこうをしたいか。
  和装。
  お侍サンの正装。相撲取り姿。羽織袴。だんじりに乗っているおっさんのいでたち。
  なんかそういうの。

 ○どこへ行ってみたいか。
  風俗。 
  性欲が、金銭と恋愛のどのあたりに落ち着くものなのかを体感したいものだ。

 ○もしも本当に自分が異性に生まれ変わっていたら、その人と付き合ってみたいか。
  嫌だ。
  こんな男、最低。気まぐれだし、カッコよくないし。
  ただ、弟とかオヤジとか、家族ならいいかなと思う。
  家事が割と好きだし、煙草も吸わないし、一家に一人いたら割りと便利だろう。

 ○このまま生まれ変わったままでいたいか。
  これはー男でいたいか、ってこと?
  性欲に振り回されるやつを大勢見てきたので、ペ○スに意志を決められるような男なら、絶対に嫌だと思う。

 

  答えてない方、よろしければ、拾ってください。
  これが、なかなか、今の自分を見直すことになっちゃったりするんです。。

  久しぶりなのに、いきなりですが。

「ななしバトン。」
 ○平日は何時に起きてますか。
  だいたい、六時から六時半の間。
  寝起きがものすごく悪いので、使い物になるまでおそろしく時間がかかるのです。
 
 ○午前中は何をしてますか。
  コドモの世話と家事一般。
  その合間に、内職仕事。
  というよりも、内職仕事の合間に家事。

 ○午後は何をしてますか。
  午前に引き続き、仕事と家事。
  コドモの世話。
  なんだ、結局、午前も午後もない。
  
 ○帰宅後は?
  コドモを寝かしつけたあと、ってことですね。
  やっぱり仕事だ。
  相方くんからメールが来ると、やりとりになる。
  ダブルミーニングなど技巧を凝らすときは数が多い。
  喧嘩になるときも、やたら多い。
  うまくいってるときは、数もコトバも少ない。ん?

 ○何時に寝ますか。
  午前零時を回って、どーにもこーにもならないくらい眠くて仕事にならなくなると、崩れ落ちるように、寝る。

 ○いつも持ち歩いている必需品。
  ケータイくらい。
  あ、そうだ、コンタクトレンズとか、五感とか、死んでない心とか。。

  そんな感じ。

  文字にすると、やたら仕事をしているみたいだけど、実際は家事と子たちの世話に追われて、ほんとうに時間が少ない。
  朝、幼稚園に行く次女を送り出すとき、テニスラケットを抱えた奥様たちに会釈なんかするのであるが、内心、うらやましく思う。
  いや、仕事好きなんですけどね。
  Christmas time in blue と、歌ってみて
      それでも  Christmasが好きらしい。

  好きなひとから交際を申し込まれたこともあった。
 
  初めて男のひとと一夜をともにしたことも。

  モトハルの声がいつもバックに流れていて。

  
  ひとに関わる思い出だけは、ありあまるほどあるというのに
 
  
  贈り物の思い出だけは、不思議と、無い。

  贈るだけのクリスマスに慣れて何年になるだろう。
  そもそも、誰かから何か贈られたことはあったのかしら。
  

  サンタクロースは、いつから来なくなったのだろう。
  おとなになれば、こんなものなの。
  それとも、わたしって、その程度の女なのかも。

  今年も、来ないまま?


  
  これって、面白いことばだよねー。

  梨花ちゃんからいただいたので、書きます。遅れてごめんなさいね、梨花ちゃん。

1.梨花ちゃんの印象。

  誠実なひと。

  お会いしたことは無いですが、見た目はすごく色っぽい女の子なんだろうなと思います。存在しているだけで、居合わせた男性の心をかき乱してしまうような。
  でも、性格は、優しい中にもきりっとしたところがあって、そうね、
  たとえば、甘い洋菓子の中にそっと隠し味で入っている塩みたいに「男気」がある、そんな印象。
  魅力的な女の子。いい子。
  だから、あたしの彼氏には会わせたくない(笑)
  でも、わたしは一度お会いしたいな。

2.周りから見たわたしって。。

  なぜだろう、女友達からは「おとなしそう」とよく言われる。原色の服着たり、髪を金髪にしたりしないからかな。
  「ロック好き」には見えないだろうな。
  それから、年下の男に手を出したりするようにも見えないだろうな。
  なぜか恋人だけは「やんちゃ」だと言う。

3.好きな人間性。
  
  誠実なひと。
  自分にも他人にも。生き物にも、モノにも。

4.キライな人間性。

  想像力の無い人。
  「こうすると、こうなるだろうな」と、先のことを思い描く力の無い人は、結局、思いやりにも欠けるし、関係ない他人を巻き込んだミスも多発させてしまうだろう。


5.理想像。

  バランスのとれたひと。
  「怒りと寛容」「調和と孤独」「お節介と放任」などなど。
  極端に走らないほどよい抑制の効いた女になりたいものだ。

6.自分のこと慕ってる人に叫んで。

  すまん!
  

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  こんな感じかな。自分で自分のことって分からないね。
  「見た目と話した感じと、印象が全然違うね」
  と、今日も言われたし。

  そんなわけで、
  次に回すのは、、、
  
  実物のわたしを見たことがあるひと。

  で、お願いしちゃったりして(笑)
  
    光の輪 人の輪 織れば ルミナリエ

  
  もう何度も訪れている催しなのに、なぜだろう、今年初めてきちんと光をとらえた気がする。

  黄色や緑や白、色とりどりの電球は全部で20万個も使われているらしい。まるでタペストリでも編むかのように、丁寧に組み合わされた光の粒たちは、冬の夜の凛とした空気の中で、ひとつひとつ誇らしげに輝いている。

  雑踏の中、手をつないで歩いた。肩を寄せ合って。

  土曜の夜だから、誰かに見られるかもしれない。
  知り合いの誰かに。
  あるいは、娘たちの学校や幼稚園の関係者に。
  よくない噂は、本人の耳だけだけには届かないもの。
  知らないうちに、わたしはどこかで思い切り落ちていくかもしれない。
  そんなことを、ふと思った。
 
  だけど、かまわなかった。

  人の波にもまれながら、光の回廊に入ったとき、思いがけず涙ぐみそうになった。
  
  こんなに綺麗なものだったのかしら。

  瞳が潤むと、余計にまぶしさが増す。いくつもの色は網膜の上で溶け合い、おぼろな光のかたまりになって弾ける。
  わたしが感動すると彼はやたら面白がるから、気持ちの揺れをなるべく悟られないようにしていた。今思うと、すごく無愛想だったかもしれない。わたしは、いつもこんなふうに損をするのだ。

  フィナーレの東遊園地では、ものすごい数の人々がひしめきあっていた。写真を撮り合い、楽しげに語り合い、無数の光の輪の中では、どの顔もまぶしそう。
  
  はぐれないようにつないでいた手が肩に回されたので、そっと顔を見上げてみた。わたしよりずっと背の高いひとだ。肩幅も広く、腕の力も強い。小さなわたしなど、どうにでもできる大きな身体なのだ。素手で首を絞めて殺すこともたやすいのだろうな、そんなことを思った。平和な光の中で。
  
  でも、大丈夫、眼鏡の向こうの目は優しい。
  それがすごく嬉しかった。
  だから、唇が降りてきたときも、さりげなく受け入れた。
  群集の中での、キス。
  

  光は、闇を知っているものだけが、その輝きを知るのだ。
  
  いつも光に満ちた道を歩けるひとはしあわせである。
  できれば、娘たちには、そんな道を神様が用意してくださっていまうように、と願う。
  けれど。
 
  今、確かに自分を慈しんでくれるひとの腕の中にいて、全身で空から降り注ぐ光を浴びているわたしは、、、
  
  おそらく、底知れぬ闇をしったからこそ、この光のまぶしさを、そして、暖かさを感じているのだろう。

  キスは繰り返された、そして、隣りにいた恋人たちも、ふと気が付くと、唇を合わせていた。

  百年も経たないうちに、この広場にいる人々は、誰もいなくなるであろう。
  人々の胸の中に、思い出という形で織り込まれた今夜の光たちも、命の終わりとともに消えていくのだ。

  それでも、命が尽きようとするとき、一瞬でも闇の向こうに灯を感じるのだとしたら、そのときの手がかりは今目にしている光に違いない、とそんなことを思いながら、わたしはそっと唇を離した。

  
  

紅葉落つ 

2005年11月14日
     紅葉落つ 風は確かにあるものを

 男を信じよう、などと思っているうちは、女は幸せになれない。

 

  友人から相談のメールを受けた。
  「わたしの友達のことなんだけど、
   <出会い系>で彼女の彼氏がトモダチ募集してるの
   みつけちゃったんだ。
   彼女たちはステデイな関係だと聞いてたんだけど、
   わたし、彼女にそのことを教えてあげるべきかな。」

  わたしなら、教えない。
  いや、黙って見過ごす方がイヤかな。
  彼氏を知ってるなら、そっちとコンタクトとるかも。
  
  大体、この魑魅魍魎なやつが大勢うろつくネット界で、なぜ「こいつがそいつだ」と認識できたのであろう。
  「そんなの、彼じゃないわ。わたしは彼のこと、信じてる」
とかなんとか言われるのがオチであろう。
  もしも、なんらかの絶対的確信を得て、「こいつがそいつ」ということが証明できたとしよう。しかし、
  「トモダチ探しでしょう。わたしは彼を信じてる」
と言われることであろう。だけど、彼女の心には、
  「だけど、ひょっとしたら、彼はわたしのことなんてどうでもいいのかも」
という疑いが生まれるかもしれないし、彼の笑顔を見て、
  「あの人ったらひどい。わたしたちの仲を嫉妬してるんだわ」
と結論付けられるかもしれない。

  などと、あれこれ考えて、非常に疲れた。

  で、結局、きちんとメールじゃなくて、会って事実を伝えれば?という返事をした。
 
  男を信じてるとかなんとかほざいてるうちは幸せになんかなれない。
  
 
  えーい、好きにしろ、わたしはあんたの気持ちなんかどうでもいい。とことん惚れてるから。

  そういう境地に至ってはじめて、女は幸せをつかむのであろう。「あいつがトモダチ探し?関係ないわ。」と泰然としていられれば、本物だろうさ。

  

  わたしには無理だが。
  相当ジタバタすると思う。

   
 

  

秋麗

2005年11月11日
    秋麗や つばさ無き肩 ただ抱きて

  ちょうど10年ばかり前の秋のことだった。
  わたしは、妹を助手席に乗せて、クルマを走らせていた。
  妹の、結婚式の朝だった。数時間ののちに、隣りに座っている彼女は、花嫁になる。
  「愛の讃歌」が、狭い車内に流れていた。
   澄み切った秋の空みたいに、透き通ったソプラノ。情熱的な歌詞なのに、いやらしさは微塵も無い。
  本田美奈子の声だ。

  当時の女の子が、結婚しないで25歳を迎えるという恐怖を、おそらく今の若いひとたちは想像もできないだろう。
  「オンナはクリスマスケーキ」と言われたものだ。24が最も売れる。25で半額なら売れる。26だと最早見向きもされなくなる・・・。
  妹が結婚したとき、わたしは25を過ぎていた。跡取り娘で、しかも妹に先を越されたとなると、先の見通しは暗い。年子の姉妹なんだから、いい人がみつかった時点で決めちまいな、と簡単に言ってはみたものの、これからの自分を思うと、さすがに落ち込む日々だった。

  しかし、妹を式場に送るために運転手役をしながら、わたしの気持ちは明るかった。その日の朝刊には、わたしの書いたエッセイが載せられていたから。「女と男のページ」という地方紙の特集で、投稿が掲載されたのはそのときで5回目だった。
  
  好きなことのために、努力をしよう。

  恋がうまくいかないときでも、仕事で落ち込んでも、わたしは書くのが好きだから、書くことに力を注ごう。
  
  そんなふうに思えるように、なっていた。

  そして、先のことを考えて落ち込みがちだったわたしに、プラス思考を授けてくれたのが、「JUNCTION」、本田美奈子が当時出したアルバムだったのだ。
  デビューしたころから、歌のうまさには定評がある人だった。愛くるしい人だった。歌の世界にすんなり入れる器用さを持った人だった。
  だけど、わたしとは同い年だった。いくら才能にあふれ、美貌に恵まれていても、「アイドル」として25歳を超えるのは難しかっただろうと思う。
  だから、彼女は挑戦したのだ。
  このアルバムには、ロック調からシャンソンからジャズから演歌調からクラシックまで、本当にバラエテイにとんだジャンルの歌が収められている。どの歌も、一言の歌詞にも手は抜かれていない。本当に。単語のひとつひとつ、まるで手中の玉を転がすように、ていねいに歌われている。

  感動した。
  だけど、それは、歌がうまいとか、ジャンルを超えた内容を歌いこなしているから、とか、そういうことからの感動ではない。
  これほどに才能があり、美貌に恵まれた、だけど、同い年の女の子が、努力をしている、ということに感動したのだ。
  これほどに輝いている女性が、さらに磨きをかけているというのに、片田舎でなんの取柄も無いわたしが、なんの努力もしなくていいのか。そう思った。
  努力。
  そんなことば、キライだ。だけど、それは他人に強制したり、されたりするからこそキライなことば。もし自分に向かってつかうのであれば、大いにつかってやろうじゃないの。
  そして、磨きをかけよう、そうしなければくすんだオバサンに成り果ててしまう。せめて、好きなことには、磨きをかけよう。

  一枚のアルバムが、転機を支えてくれた。25歳という壁を、ひとりぼっちで越える力を与えてくれた。

  訃報を聞いて、テレビが「38歳、早すぎる死」と繰り返すのを聞くたびに、わたしは途方に暮れる。
  彼女はいつも輝いていて、そして、自分の好きなことに努力を惜しまずにいて、同い年の女として、どこかでわたしの心を照らしてくれていたのに。
  38歳が早すぎるのは、輝いていたからである。
  わたしは相変わらずなんの取柄もなく、それなのに生きている。
  わたしはまたjunctionにいて、自分を励まして先へいかなくてはいけない。
  書くことに磨きをかけよう、という目標は、原稿用紙の束の前で、赤ペンを握りしめることによって義務となっている。先へ、先へ行かなくてはいけない。いくらシケた毎日であろうと、どっちみちオバサンへの道を歩んでいるのだとしても、生きているから、行かなくてはいけない。

  本田美奈子に、いて欲しかった。
  ずっと、遠くで輝いていて欲しかった。
  もっと、貴女を見上げていたかったよ。
  
  誰にもまねのできない歌声をもち、
  エンジェルのような笑顔が似合う、
  同い年の女の子だった。

天高し

2005年10月27日
      天高し 形変えたる雲も無く

  
 むなしい。
 空に溶け込みたくなります。
 
  「こうしない方がいい」
   よりも、
  「こうした方がいいよ」
   と、アドバイスできるひとに、なりたい。

   初婚と再婚の決定的な違いって、
   前者は
   「しあわせに、したい」
   と思うのに対し、後者は、
   「不幸にしてはいけない」
   と思うことにあるのではないかしら。

   
   ほんとうに、失敗ばかりしてきたみたいな気がする。

  けれど、こんなふうにならないようにしてね、ではなく、
  こんなふうになれるようにがんばってね、って、
  そうね、年老いてから、大きな秋の夕日に包まれながら
  迷える若い女の子に言えるように・・・

   がんばろう。

PEARL PIERCE

2005年10月24日 音楽
 先日「DANG DANG」について書いたところ、モモさんから本文で丁寧なコメントをいただき、ああそういうことか、と納得しました。
 モモさん、ありがとう。

 わたしがこのアルバムを聴いたときは、まだ本当に田舎者のガキで、だから「朝焼けの海辺」を走る姿も、裸足だったり自転車に乗ったり、でイメージしてた。海は当時住んでいた日本海だったりする。
 同じ曲なのに、聴いた年齢や聴いた場所で解釈が違う。
 なのに、聴いたひとは、それぞれに心を動かされているの。
 
 ユーミンの世界って、「ぬり絵」みたいなものなのかもしれない。
 そこには確実に線が引かれている。だけど、そこに塗る色は、耳にしたひとがそれぞれ自由に選べるの。
 あの当時の女の子は「勝ち組」に入る以前の「人並み」に入ることで必死だった。
 恋も、結婚も、仕事も。「勝つ」よりも「標準」になることで、しのぎを削った。
 ユーミンの歌は、レギュラータイプになりたい女の子の心の、ちょっとした引っ掛かりをうまくとらえてくれてた。
 
 さて、このアルバムのタイトル曲(微妙に違うが)「真珠のピアス」。
 最初に聴いたとき、曲の始まりにある「肩にあごを載せて」云々の体位が全くわからなかった。そんなネンネだったのに、この曲は当時からたいせつなものとなった。
 「終わった」とも「くやしい」とも「せつない」とも、感情を表すことばはまったくつかわれていないのに、ヒロインの動作や風景で、状況を説明できている、その方法に憧れた。後年、俳句に同じような世界を感じて惹かれた。
 
 あらためて今、聴いて、胸に迫る思いがある。

 このヒロインは、年上ではないかしら。

 そんな思い。
 塗りきれないでいた色が、これで完全になり、わたしの中では曲の世界が完結した。

 物分りよくふるまわいたいという美学がある。
 
 どんな激情に足元をすくわれそうになっても、崩れきることはしたくない。
 なにもかもわかっていても、露骨に恋人を責めたくは無い。
 彼のためではなく、自分のために、引き際は自分がリードしたい。

 なんて強がり。なんて可愛くない女。
 それでも、最期には「サヨナラ」を与える。
 彼の望みを、彼が口にする前に、こちらから、あげる。

 でも、少しだけは傷つけてやりたい。それが、意地。

 だから、「ベッドの下に片方捨てた」ピアスは、彼だけがみつければいい。そこに秘められた思いをどう処分しようと、それはもう知らない。

 そんなふうに思っているのに、現実は逆方向へ向かっている。

 

Neue Musik

2005年10月18日 音楽
 久しぶりに聴くと、かつて見えなかったものが見えてきたりするんだなあ。。

 「彼女は知らないなら、友達になるわ。
  それしか あなたに会う チャンスは無いもの 
  今は。」

 この歌の「今」にずっと引っかかってた。
 この歌のヒロインは、かつて彼と付き合っていた。だから、

 「過去にはあなたに会えたけれど、もう今は会えない。」

  って、昔を思ってかなしんでいるのか、

 「今は会えないけれど、将来絶対あなたをモノにして、
  そんなふうじゃなくても会えるようになってやる。」

  って、再起を誓っているのか、

  どっちなんだろう。

  同世代の方、教えてくださるかしら。何の歌か、わかるひとなら、答えられると思うんだけど・・・。

 
     花芯より きみの放てり 秋の蝶

  
「あなたと愛し合うようになって、初めてわかったの。
女のエクスタシーは、蝶のように進化するものなんだわ。
  きっと、女はすべて、快楽の卵を身体の奥深くに抱えているものなんだわ。
  そして、男と出会い、愛し合うことで、その卵は孵化し、少しずつ成長するのよ。
  わたしの中で眠っていた卵をかえらせ、あなたは優しく育てくれた。
  快楽の蝶が、さっき、あなたの腕の中で、サナギから蝶に進化したのよ。
  身体の奥で、真っ白い蝶が、大きく羽ばたいて飛ぶのを見た。こんなことは、本当に、初めて。」

  ・・・などという言葉を言わせるとしたら、20代から50代くらいまでの、どの年代の女がいいかしらーなどと考えていたときに、この本と出逢った。

  そして、読み終わったときに突き当たったのは、

  「男は進化する生きものなんだな。」

  と、いう真実。

  女は、生まれたときから女で、年月を重ねても、その本質が変化することは、無い。

  だけど、男は違うみたい。
  幼虫から蝶になっていくように、めざましく変化していくのだ。少年が大人の男になっていく過程は、成長という言葉が弱く響くほど、激しいものらしい。

  これは、サナギを脱皮して蝶になった一人の少年の、ひと夏の物語である。
  彼は、多くの女性の腕の中で、彼女たちの快楽の蝶を思う存分に羽ばたかせ、自らが雄雄しい蝶に変っていった。

 少し本から離れるけれど。
 わたしには息子がいないから、男の子を持つ母親の姿を客観視することができる。
 そのタイプは二通りある。
 一つは、幼虫からサナギへ、そして一人前の蝶へ移り変わっていくわが子を、あたたかく見守ってやれるタイプの母親である。
 もう一つは、息子の変化に驚き、どこかで幼虫のまま生長を止めてしまおうと、ひたすらわが子の抱え込みに向かう母親である。 
 前者のタイプの母に育てられれば、息子はきちんと大人の男になれる。
 しかし、後者ならば、それは、姿だけは大人であっても、中身は気色悪くうごめくだけの幼虫なのである。

  これから結婚にふみきろうという女の子は、彼の母親が、このどちらのタイプなのか、よく見極めてから決めることだ。たとえば、あなたと彼と彼のママが同席しているとき、彼が汗をふこうとして自分のハンカチがみつからなかったとする。あなたが自分のハンカチを先に渡し、彼がそれを受け取って汗をぬぐうのを、黙ってみているママならば、まあ、前者かもしれない。しかし、彼がもうあなたのハンカチで間に合っているのに、わざわざ自分のハンカチを出して手渡すようならば、それは後者であろう。
 後悔、先に立たず。


  

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