あまりにもリアルな夢だった。
自分の見慣れたベッドが、目覚めてすぐは、見慣れない物のように思われたほどだ。
あのひとに、抱かれていた。
はじめて出会ったのは、光化学スモッグが発令された暑い日だった。
三才の息子を連れて児童館にいたとき、ふいに外から、街宣車の割れ気味の声が響いてきたのだ。
「ただ今、光化学スモッグが発令されました。皆様気を付けてください。」
「光化学スモッグ」という言葉を耳にしたのは、じつはそのときが生まれて始めてだった。
どうしたらいいの。
不安そうな母親の顔を見て、息子も泣きかけている。途方に暮れたときに、
「大丈夫。しばらくここから動かないでください。」
若い男が、そばに立っていた。
児童館の職員で、男性というのは、はじめて見た。
最初は戸惑ったが、まず、小学生の男の子たちがなつきはじめ、次第にフアンが増えていったらしい。
大学を出て、すぐに採用になったという。
ずっと、ハンドボールをやっていて、インターハイにも出ていたらしい。
そういうことを、小学生の子供をもつ母親友達から聞いて知った。
人見知りする方だから、児童館へ行っても自分から話し掛けるようなことはしなかったし、なによりいつも、彼のまわりには大勢の子供たちが集まっていて、息子のことは見ても、その母親の自分に彼が目を向けていたことなど、無かった。
と、思っていた。
その人に抱かれる夢を、見た。
たぶんそれは、この前、めずらしく人の少ない児童館で、彼と短い会話を交わしたから、だろう。
「この辺りのお生まれではないんですね。」
「ええ・・・。でも、どうして。」
「前、光化学スモッグのこと、知らなかったから。空気の奇麗なところで育ったんだろうなって。」
しばらく、故郷の話をした。
畑がいっぱいある、山間の村のこと。
「今ごろは、いちごの季節よ。」
そう言うと、
「そうですか。いちご、かあ。畑でつみたてのやつって、おいしんでしょうね。」
と答え、そして、いちごの話の続きみたいに、
「いちごといっしょに育ったから、そんなに、みずみずしい肌なんですね。」
そんな言葉を置いて、そして、そのまま職員室へ消えた。
ひとの妻になり、まして、母になった女に、不用意にそいうことを言うのは罪深いことである。
だけど、そういう「罪」に気が付きもしないほど、相手は若いということである。
いちご食ふ浮気ごころをつぶしつつ
あれは、夢、なのだ。
自分の見慣れたベッドが、目覚めてすぐは、見慣れない物のように思われたほどだ。
あのひとに、抱かれていた。
はじめて出会ったのは、光化学スモッグが発令された暑い日だった。
三才の息子を連れて児童館にいたとき、ふいに外から、街宣車の割れ気味の声が響いてきたのだ。
「ただ今、光化学スモッグが発令されました。皆様気を付けてください。」
「光化学スモッグ」という言葉を耳にしたのは、じつはそのときが生まれて始めてだった。
どうしたらいいの。
不安そうな母親の顔を見て、息子も泣きかけている。途方に暮れたときに、
「大丈夫。しばらくここから動かないでください。」
若い男が、そばに立っていた。
児童館の職員で、男性というのは、はじめて見た。
最初は戸惑ったが、まず、小学生の男の子たちがなつきはじめ、次第にフアンが増えていったらしい。
大学を出て、すぐに採用になったという。
ずっと、ハンドボールをやっていて、インターハイにも出ていたらしい。
そういうことを、小学生の子供をもつ母親友達から聞いて知った。
人見知りする方だから、児童館へ行っても自分から話し掛けるようなことはしなかったし、なによりいつも、彼のまわりには大勢の子供たちが集まっていて、息子のことは見ても、その母親の自分に彼が目を向けていたことなど、無かった。
と、思っていた。
その人に抱かれる夢を、見た。
たぶんそれは、この前、めずらしく人の少ない児童館で、彼と短い会話を交わしたから、だろう。
「この辺りのお生まれではないんですね。」
「ええ・・・。でも、どうして。」
「前、光化学スモッグのこと、知らなかったから。空気の奇麗なところで育ったんだろうなって。」
しばらく、故郷の話をした。
畑がいっぱいある、山間の村のこと。
「今ごろは、いちごの季節よ。」
そう言うと、
「そうですか。いちご、かあ。畑でつみたてのやつって、おいしんでしょうね。」
と答え、そして、いちごの話の続きみたいに、
「いちごといっしょに育ったから、そんなに、みずみずしい肌なんですね。」
そんな言葉を置いて、そして、そのまま職員室へ消えた。
ひとの妻になり、まして、母になった女に、不用意にそいうことを言うのは罪深いことである。
だけど、そういう「罪」に気が付きもしないほど、相手は若いということである。
いちご食ふ浮気ごころをつぶしつつ
あれは、夢、なのだ。
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