唇を合わせた瞬間に、強いアルコールの匂いがした。
酔わなければ抱けないというわけでも無いだろうに。
それが不快というのでは無い。
むしろ、彼の酔いがこちらに移ってくればいいのにと思う。わたしも、酔いたい、力まかせに。
キスが続く。
ながいながいキス。
わたしたちは、車の中にいた。
そして、梅雨の、静かな雨に包まれていた。
濃い紫の紫陽花を思わせる夜のそらの色が、彼にきつく抱きしめられたときに目に映った。
雨は見えない。
ただ、車の窓をいくつも、いくつも、雫たちが滑る、それだけは見える。
「場所、変えようか。」
キスの途中、彼の声はかすれている。
「いいえ・・・あなたさえよければ。」
ここで、いい。
ここが、いい。
高まりを、殺したくなかった。
雫たちは、わたしの身体の中にも流れ出し、止められそうにない。
彼の指先が、まるでそのことを知っているように、ふとももをのぼってゆく。そして、キスは、首すじから胸元へおりていく。激しく打ち続く脈を確かめるように、ゆっくり。
わたしは、彼の頭の後ろの髪が、かすかに巻き毛になっているのを知る。そして、その一束を無意識に弄びながら、彼の指を迎え入れ、そして、無意識に声を立てる。
声が男に何かのゴーサインを与えたのだろうか。
ふいに、身体にからみついた腕がおそろしい力で離され・・・次の瞬間、足がむき出しになるのを感じ、間をおかずに、男を迎え入れてしまったのを覚える。
彼が、暴れている。
わたしは目を閉じている。
こういうことだったのか、と思う。
意外なことは何もない。
ずっと前から分かっていたことが、今、身の上に起きている。
そしてそれは、幾分厄介なことに、とても、とても、気持ちがいいのだった。
彼とははじめてだけど、男ははじめてでは無い。
でも、そういう、いわば「体験しているから」という理由で、こういう行為が気持ちがいいと感じるわけではないような気がした。
自分が持っていない快感のパーツは全てひとつ残らず彼にあって、今、わたしへとあらあらしい奔流になって与えられているのだ。
瞼の奥に、いくつ、稲妻が走っただろう。


水蜜の押せば崩るる恥ずかしさ

何も考えたくない。
何も考えない。

やがて、身体の汗をぬぐいながら、独り言のように彼がつぶやく。なぜか、淋しそうに。
「あなたに、惹かれていくよ・・・怖いくらいだ。」
そっと、キスを返してやる。
「わたしも・・・。」

でも、惹かれ合い、結びついたものが、かならずしもずっとそのままでは無いということに、気が付くべきだった。
少なくとも、彼の、怖い、という言葉にもう少し注意をはらうべきだったと思う。

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