職場から滝の姿は消えた。
でも、わたし個人の携帯に、滝からメールが入るようになった。
どちらかの車でドライブをした。
海を見て、映画へ行って、お茶を飲み。
そして、抱き合う。
ただ、顔を合わせている間、一体何を話していたのだろう。
あの頃の思い出はまるで無声映画のようだ。
仕事のこと。
あるいは、共通の知人の噂話。
よくよく思い出せば、何かは思い出せる。
でも、言葉を拾い集めるよりも、愛し合ったときのしぐさのひとつひとつ、キスの瞬間たち、そういった記憶を探る方がはるかにたやすい。
わたしたちは、ひたすら愛し合った。
まるで、のどの渇きを抑えるように彼はわたしを求めた。
そして、わたしは、与えられるだけの全ての身体の言葉を駆使して、彼に尽くした。
あるいは、尽くされていたのは、わたしの方だったのか。
彼はいつも、とても疲れているように見えた。
新しい仕事のせいだろうと思いながら、なぜか不安がいつも胸から離れない。
かつて、藤城を愛しすぎていた頃、藤城がわたしに見せた表情と、今の滝の消耗した顔付きが、なぜかダブって感じられる。
家庭を捨てることはできず、けれども、離れられない女がもう一方にいる。上手にバランスを取れると思っていても、ふいに、傾くことがある。傾きかけたものをまた水平にもどすのは、実は相当疲れるものなのだ・・・。
でも、滝は、違う。
彼には、わたししかいないはず。

おもわず、離さないで、と叫んでしまったとき、
どうしてあんなに苦しそうな顔をしたの。

身体同士の相性というものがあるのだとしたら、ふたりの組み合わせは最高だ。
でも、そのことさえ、なぜか不安にさせる。

遠雷を裸の胸に引き寄せる

結婚、という言葉がいつまでも出ない。
それが、不安。
あるいは、愛すれば愛するほど、不安はかさ高くなるものなのか。
恋人同士として、もっとも楽しいはずの季節を、なぜかとても苦しい思いで過ごしていた。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索