恋猫 弐
2002年6月28日 滝とのことークリの花(完結)大田をくるまに乗せてしまった後で、もしも店に着いたときに、滝がいなければどうしようかなと思った。
或いは、郷村俊枝が同席しているということだって考えられた。
大田と話すこともそれほどは無く、店までの二十分ほどを黙々と運転した。
だからその居酒屋のカウンターに滝の姿を見たときには、嬉しかった。
「・・・ひさしぶりだな。」
あの、なつかしい香がする。
特別な関係にある男の身体の香は、ふと感じただけでめまいがしそうになる。
そして、その香をかいだときに自分がとても疲れているのに気が付いた。
さっき郷村俊枝と対決し、藤城からメールをもらった。
そのふたつの事件の後で一番会いたかった男に会えた。
もう、今日はこれでいい。
「営業所の開店日、近付きましたね。毎日、お忙しいんでしょう。」
わたしは、素直に滝をねぎらった。
「うん。雑用ばかりが次々に沸いて出て。」
そして、小さな声で、
「ずっと会たかったんだけど。」
と、ささやき、カウンターの下のわたしの太股をぎゅっ、とつかんだ。
その手を上から握り締めながら、
「わたしも。」
と答える。
目は合わせない。
滝の目をまともに見たら、絶対に言ってしまう。
どうして紅筆がくるまの中にあったの。
それは、疲れたこの人を責めることにつながる。
わたしは、ほんとうは滝を責めたいのだ。
そして、疑惑を晴らしたいのだ。
でも、怖かった。
もしもその答えが。
恋猫の渡りきれない大通り
交通量の多い道路の向こうに、恋する相手が住んでいる。でも、臆病な猫は渡れない。勇気を奮い立たせてみても、こわいのだ。ひっきりなしに走りすぎる車にふきとばされそうになって。
わたしの心は、滝の心に踏み込めない、一匹の猫だ。
「滝さん。」
「何。」
「・・・ただ、会いたかった。」
滝の手がわたしのスカートの中に入る。
そして、細長い指先が静かに核心のところへ迫ってくる。
わたしは、足を開いてゆく。
そして、腰をすこし浮かせる。
男の指が、蜜をすりつけてゆき、ふと顔を見ると、滝は静かに微笑んでいる。
やがて指がぬかれる。
男がその指を口元に持っていき、そっと舌で舐める。
「お前ってやつは。」
淫乱だな、と言いたいのか。
わたしはほとんど怒りをこめて相手の股間を愛撫する。
わたしは、この人をほとんど憎んでいるのだ。
そして、たまらなく欲しているのだ。
大田は何も見ていないふりをしていた。
いや、本当に何も見ていなかったのかもしれない。
滝はその行き付けの店のトイレが男女共有であるのをいいことに、わたしをそこへ誘い込み、そしてすぐさま、後ろから、仕掛けてきた。
今夜はこれで、いい。
ずっと、これが、いい。
だが、滝とわたしの間に転機が迫っていた。
それは、快楽の声を抑えるのに懸命だったそのときには、思いもしなかったことだった。
或いは、郷村俊枝が同席しているということだって考えられた。
大田と話すこともそれほどは無く、店までの二十分ほどを黙々と運転した。
だからその居酒屋のカウンターに滝の姿を見たときには、嬉しかった。
「・・・ひさしぶりだな。」
あの、なつかしい香がする。
特別な関係にある男の身体の香は、ふと感じただけでめまいがしそうになる。
そして、その香をかいだときに自分がとても疲れているのに気が付いた。
さっき郷村俊枝と対決し、藤城からメールをもらった。
そのふたつの事件の後で一番会いたかった男に会えた。
もう、今日はこれでいい。
「営業所の開店日、近付きましたね。毎日、お忙しいんでしょう。」
わたしは、素直に滝をねぎらった。
「うん。雑用ばかりが次々に沸いて出て。」
そして、小さな声で、
「ずっと会たかったんだけど。」
と、ささやき、カウンターの下のわたしの太股をぎゅっ、とつかんだ。
その手を上から握り締めながら、
「わたしも。」
と答える。
目は合わせない。
滝の目をまともに見たら、絶対に言ってしまう。
どうして紅筆がくるまの中にあったの。
それは、疲れたこの人を責めることにつながる。
わたしは、ほんとうは滝を責めたいのだ。
そして、疑惑を晴らしたいのだ。
でも、怖かった。
もしもその答えが。
恋猫の渡りきれない大通り
交通量の多い道路の向こうに、恋する相手が住んでいる。でも、臆病な猫は渡れない。勇気を奮い立たせてみても、こわいのだ。ひっきりなしに走りすぎる車にふきとばされそうになって。
わたしの心は、滝の心に踏み込めない、一匹の猫だ。
「滝さん。」
「何。」
「・・・ただ、会いたかった。」
滝の手がわたしのスカートの中に入る。
そして、細長い指先が静かに核心のところへ迫ってくる。
わたしは、足を開いてゆく。
そして、腰をすこし浮かせる。
男の指が、蜜をすりつけてゆき、ふと顔を見ると、滝は静かに微笑んでいる。
やがて指がぬかれる。
男がその指を口元に持っていき、そっと舌で舐める。
「お前ってやつは。」
淫乱だな、と言いたいのか。
わたしはほとんど怒りをこめて相手の股間を愛撫する。
わたしは、この人をほとんど憎んでいるのだ。
そして、たまらなく欲しているのだ。
大田は何も見ていないふりをしていた。
いや、本当に何も見ていなかったのかもしれない。
滝はその行き付けの店のトイレが男女共有であるのをいいことに、わたしをそこへ誘い込み、そしてすぐさま、後ろから、仕掛けてきた。
今夜はこれで、いい。
ずっと、これが、いい。
だが、滝とわたしの間に転機が迫っていた。
それは、快楽の声を抑えるのに懸命だったそのときには、思いもしなかったことだった。
コメント