・・・・泊まってしまった。
わたしは一人暮らしだからまあいいとして、この人はこれから大丈夫だろうか。
「あの・・・大丈夫ですか?。」
「何が?。」
「昨日、出張帰りだって言ってたでしょう。なのに、いきなり、と、と。」
妙に恥ずかしくて言いにくい。「と、泊まっちゃったりして。」
「ああ。大丈夫です。昨日も言ったでしょ。出張先でトラブルがあったってことになってるから。
僕は九州担当だからそういうこと、実際によくあるんです。」
「そう。なら、いいけれど。」
土曜日の朝。ラブホテルの一室。ピタリと閉じられた窓からは光は全く入って来ないけれど、 男がつけたテレビのニュースは、今日も酷暑だと告げている。
「あの。帰ります。」
わたしは立ち上がる。
「はあ、僕も出ますよ。」
男は少し慌てた様子で受話器を取るとフロントを呼び出す。
外に出ると、一斉に蝉が鳴いている。
二人は駅までの道を一緒に歩く。
昨日、わたしは何でこの人に誘われてここまで付き合ったのだろう?。
TOMOが悪いんだわ。
あの人が、いつまでも元カノのことを引きずってたりするから。
だから二人はケンカになって、約束していた映画に行けなくなって、わたしは一人でスタバに行って、そこでこの人と、会ったのだ。
会ってお茶して、それで終わらなかったのは、この人がとても嬉しいことを言ってくれたからだった。
「手練手管を尽くした女が退いてやったんですよ。年下の男に棄てられた、なんてあなたのような美人が言うセリフじゃない。」
だったかな。
自分に自身がなくなりつつあったわたしにとって、そういうセリフは何よりも欲しいものだったから・・・つい、映画にも一緒に行っちゃったし、ホテルのバーにも行っちゃったし、ついでに終電が無くなったのをいいことに、駅の近くのラブホにも行っちゃった・・・ベッドではイケなかったんだけれど。
女ってこういうときすごく哀しいな、って思う。
基本的にこの人は、いわゆる「ヘタ」では無いと思うんだけれど・・・いろいろ尽くしてくれたし、乱暴でも無かったし。でも、感じなかった。
男はイッたあとで、よかった、って言った。
それは、よかった?では無くて、よかったよ、だったんだとは思うけれど、わたしは返事ができなかった。心の中でずっと、TOMOの名前、呼んでたし。結婚しているという男にはテクがあり、落ち着きがあったけれど、でも、かなわない。
TOMOの、不器用な、キス。
自分勝手な動き。
その瞬間には絶対に自分のことしか考えていない、力任せの腰つかい。
そういうものに、かなわない。
わたしは、やっぱりTOMOが好き。
六つも年下の、わがまま男のことが。
「じゃ、ここで。さよなら。」
「はい、さようなら。・・・楽しかったよ。」
男は何か言いかけて止める。連絡先を聞こうとしたのかも。そしてわたしに、その気は無いのだ。
蝉時雨止めば無口になるふたり
その辺りじゅうに響き渡っていた蝉の声が、なぜかピタリと止んだ。
さよなら、以外何もかける言葉が無いということが、なぜだか罪深く感じて、わたしは曖昧に微笑んでから、暑さのせいで白っぽく見える改札に向かった。
わたしは一人暮らしだからまあいいとして、この人はこれから大丈夫だろうか。
「あの・・・大丈夫ですか?。」
「何が?。」
「昨日、出張帰りだって言ってたでしょう。なのに、いきなり、と、と。」
妙に恥ずかしくて言いにくい。「と、泊まっちゃったりして。」
「ああ。大丈夫です。昨日も言ったでしょ。出張先でトラブルがあったってことになってるから。
僕は九州担当だからそういうこと、実際によくあるんです。」
「そう。なら、いいけれど。」
土曜日の朝。ラブホテルの一室。ピタリと閉じられた窓からは光は全く入って来ないけれど、 男がつけたテレビのニュースは、今日も酷暑だと告げている。
「あの。帰ります。」
わたしは立ち上がる。
「はあ、僕も出ますよ。」
男は少し慌てた様子で受話器を取るとフロントを呼び出す。
外に出ると、一斉に蝉が鳴いている。
二人は駅までの道を一緒に歩く。
昨日、わたしは何でこの人に誘われてここまで付き合ったのだろう?。
TOMOが悪いんだわ。
あの人が、いつまでも元カノのことを引きずってたりするから。
だから二人はケンカになって、約束していた映画に行けなくなって、わたしは一人でスタバに行って、そこでこの人と、会ったのだ。
会ってお茶して、それで終わらなかったのは、この人がとても嬉しいことを言ってくれたからだった。
「手練手管を尽くした女が退いてやったんですよ。年下の男に棄てられた、なんてあなたのような美人が言うセリフじゃない。」
だったかな。
自分に自身がなくなりつつあったわたしにとって、そういうセリフは何よりも欲しいものだったから・・・つい、映画にも一緒に行っちゃったし、ホテルのバーにも行っちゃったし、ついでに終電が無くなったのをいいことに、駅の近くのラブホにも行っちゃった・・・ベッドではイケなかったんだけれど。
女ってこういうときすごく哀しいな、って思う。
基本的にこの人は、いわゆる「ヘタ」では無いと思うんだけれど・・・いろいろ尽くしてくれたし、乱暴でも無かったし。でも、感じなかった。
男はイッたあとで、よかった、って言った。
それは、よかった?では無くて、よかったよ、だったんだとは思うけれど、わたしは返事ができなかった。心の中でずっと、TOMOの名前、呼んでたし。結婚しているという男にはテクがあり、落ち着きがあったけれど、でも、かなわない。
TOMOの、不器用な、キス。
自分勝手な動き。
その瞬間には絶対に自分のことしか考えていない、力任せの腰つかい。
そういうものに、かなわない。
わたしは、やっぱりTOMOが好き。
六つも年下の、わがまま男のことが。
「じゃ、ここで。さよなら。」
「はい、さようなら。・・・楽しかったよ。」
男は何か言いかけて止める。連絡先を聞こうとしたのかも。そしてわたしに、その気は無いのだ。
蝉時雨止めば無口になるふたり
その辺りじゅうに響き渡っていた蝉の声が、なぜかピタリと止んだ。
さよなら、以外何もかける言葉が無いということが、なぜだか罪深く感じて、わたしは曖昧に微笑んでから、暑さのせいで白っぽく見える改札に向かった。
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