結婚しよう。
と、言われたあと、初めてのデート。
きっと返事を心待ちにしているであろう相手に、実はまだちゃんとした答えを準備できていない。
それでも約束は守る。プロポーズされる前からの約束だったから。今日、会うのは。
別に特別な場所へ行くというわけではない。
ただの、映画デート。
でも、まあその映画は前からずっと観たかったし、それに、朝起きたらとてもいい天気だったし。
雲ひとつ無い青空、である。
まさに。
じっと見ていると、ぐんぐん舞い上がって行けそうな、眩しい青さ、である。
目を思い切りパチパチやって、うーん、と大きく深呼吸をして。
「何してるの。」
映画館を出た彼の第一声。
暗さに慣れた目に、大空が痛い。
「ううん、別に。きれいだなあって。」
彼も空を見上げて息を大きく吸い込んでいる。
少し出始めたお腹に、ビリジアン色のカーデイガンがぽこん、と乗っかっている。そこらへんから、パパ、という子供の声がしそう。実際、そういう年頃でもある。
わたしも、人のことは言えない。
ふたりで、ぶらぶら歩いていく。
川べりの公園では、収穫祭の真っ最中。仮設テントが並び、野菜や草花がいっぱい売られている。風船を手にした子供たちや、手押し車を押したおばあさん、たくさんの人々で、にぎわっている。
芋煮、と大きく書かれたのぼりの下で、彼が立ち止まる。確かに、いい匂い。
「並んで来るね。」
わたしの意向も確かめずに、芋煮の列に並んでしまう。
そういうところが、やっぱり三十半ばの男女、なんだなあ。
昔は、こんなことなんか無かった。
わたしの、世代。
バブル時代に女子大生だったから、就職にも困らず、「いい会社」に勤めることができたけれど、それは決して、今、こうして自分自身を養って行く為では無かったんだよなあ。
「いい会社」に入ったのは、エリートな男を見つけて、その妻におさまり、一生、いい暮らしをさせてもらう為、であったのだ。他力本願の、幸せ。
実際、そうして「幸せな人妻」の地位を確保した友達もいるけれど、途中で路線が変わった、という例もある。捕まえた男のリストラ、会社そのものが無くなった、ってのもあった。
そういう例をいっぱい見てきたから、余計に結婚に二の足を踏むようになり。
現在、ぱっとしない男と、ぱっとしない休日を過ごしているという次第。
それでも、芋煮、は、ほくほくあったかくて、とてもおいしかった。
へたに甘いだけのケーキなんかよりも、ずっと感動的な味だった。
「おいしいね。」
「そうだねえ。」
お腹が適度に膨れて、いい感じで身体が動く。
二人並んでテントをひやかして歩く。
「何か買っていきます?。」
「うーん。」しばし、辺りを見回して、
「やめとく。なんか、どれも重そうだから。」
みかん、さつまいも、とうもろこし、新米。
どれもおいしそうだけれど、とてつもなく重そう。持てないよ。
「大丈夫、大丈夫。」
彼はそう言って、みかんと、さつまいも、それに、しいたけを買った。両手に下げると、やっぱり大変そう。
「おっとっと。」
「ひとつ、持つよ。」
わたしは、みかんを抱える。
秋の日のぬくみが、あまずっぱい香りに溶け込んでいる。
両腕に収穫の荷のあたたかさ
「お米も、欲しいな。」
「無理でしょ、電車で来てるのに。」
「そっか。」
それにしても、重い。
収穫、というのは、こんなに重いものなのだ。
ありがたきもあり、めでたくもあり。
されど。
何かを抱える幸せ、というのはこういうことなのかも。
彼は新米二キロ入りを一つ、買った。
「あとで、ぼくの部屋で、これ、炊きましょう。」
その笑顔につられて、わたしも思わず笑いかえしていた。
「じゃあ、そのお米、一緒に持つよ。」
と、言われたあと、初めてのデート。
きっと返事を心待ちにしているであろう相手に、実はまだちゃんとした答えを準備できていない。
それでも約束は守る。プロポーズされる前からの約束だったから。今日、会うのは。
別に特別な場所へ行くというわけではない。
ただの、映画デート。
でも、まあその映画は前からずっと観たかったし、それに、朝起きたらとてもいい天気だったし。
雲ひとつ無い青空、である。
まさに。
じっと見ていると、ぐんぐん舞い上がって行けそうな、眩しい青さ、である。
目を思い切りパチパチやって、うーん、と大きく深呼吸をして。
「何してるの。」
映画館を出た彼の第一声。
暗さに慣れた目に、大空が痛い。
「ううん、別に。きれいだなあって。」
彼も空を見上げて息を大きく吸い込んでいる。
少し出始めたお腹に、ビリジアン色のカーデイガンがぽこん、と乗っかっている。そこらへんから、パパ、という子供の声がしそう。実際、そういう年頃でもある。
わたしも、人のことは言えない。
ふたりで、ぶらぶら歩いていく。
川べりの公園では、収穫祭の真っ最中。仮設テントが並び、野菜や草花がいっぱい売られている。風船を手にした子供たちや、手押し車を押したおばあさん、たくさんの人々で、にぎわっている。
芋煮、と大きく書かれたのぼりの下で、彼が立ち止まる。確かに、いい匂い。
「並んで来るね。」
わたしの意向も確かめずに、芋煮の列に並んでしまう。
そういうところが、やっぱり三十半ばの男女、なんだなあ。
昔は、こんなことなんか無かった。
わたしの、世代。
バブル時代に女子大生だったから、就職にも困らず、「いい会社」に勤めることができたけれど、それは決して、今、こうして自分自身を養って行く為では無かったんだよなあ。
「いい会社」に入ったのは、エリートな男を見つけて、その妻におさまり、一生、いい暮らしをさせてもらう為、であったのだ。他力本願の、幸せ。
実際、そうして「幸せな人妻」の地位を確保した友達もいるけれど、途中で路線が変わった、という例もある。捕まえた男のリストラ、会社そのものが無くなった、ってのもあった。
そういう例をいっぱい見てきたから、余計に結婚に二の足を踏むようになり。
現在、ぱっとしない男と、ぱっとしない休日を過ごしているという次第。
それでも、芋煮、は、ほくほくあったかくて、とてもおいしかった。
へたに甘いだけのケーキなんかよりも、ずっと感動的な味だった。
「おいしいね。」
「そうだねえ。」
お腹が適度に膨れて、いい感じで身体が動く。
二人並んでテントをひやかして歩く。
「何か買っていきます?。」
「うーん。」しばし、辺りを見回して、
「やめとく。なんか、どれも重そうだから。」
みかん、さつまいも、とうもろこし、新米。
どれもおいしそうだけれど、とてつもなく重そう。持てないよ。
「大丈夫、大丈夫。」
彼はそう言って、みかんと、さつまいも、それに、しいたけを買った。両手に下げると、やっぱり大変そう。
「おっとっと。」
「ひとつ、持つよ。」
わたしは、みかんを抱える。
秋の日のぬくみが、あまずっぱい香りに溶け込んでいる。
両腕に収穫の荷のあたたかさ
「お米も、欲しいな。」
「無理でしょ、電車で来てるのに。」
「そっか。」
それにしても、重い。
収穫、というのは、こんなに重いものなのだ。
ありがたきもあり、めでたくもあり。
されど。
何かを抱える幸せ、というのはこういうことなのかも。
彼は新米二キロ入りを一つ、買った。
「あとで、ぼくの部屋で、これ、炊きましょう。」
その笑顔につられて、わたしも思わず笑いかえしていた。
「じゃあ、そのお米、一緒に持つよ。」
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