寒林

2002年11月26日 みじかいお話
最近、家に帰って机の上に封筒が乗っかっていると、一瞬、退くようになった。
ペンフレンドとも、メールのやり取りをするようになった昨今、封筒がやって来るのは、大抵、あれに決まっている。
あれ。
結婚披露宴の、招待状、ってやつですね。

二十五を回った頃から、自分がどうやら「晩婚組」らしいぞということを感じはじめた。
でも、こうして三十になってしまうと、いちいち「早婚組」「晩婚組」などと、組分けするのもあほらしくなる。
両親も顔さえ見れば、結婚しろ、と騒ぐから、三度の飯さえまずくなるわい!という感じだったのが、最近はやたらおとなしくなった。
こうした封筒も、電気スタンドとプリンターの間に、隠すようにして置いてあるのは、母親の気使い、というものかもしれない。

でも、まあ、招待されるのは嬉しい。
高校時代の同級生で、そんなに親しい子でも無いけれど・・・多分、仲良し組が出産ラッシュだから、ほいほい出て来られそうなのは、わたし位なのだのだろう。

ええ、行かせていただきますよ。喜んで。
わたしだって、そのうちナントカなるに違いないのだ。
たくさんはいらない。
たったひとり、でよいのだから。
しかも、わたしは決してモテない訳ではない。
合コンでは、必ず誰かが「送っていくよ」と言ってくれる・・・いや、くれた、し。
会社の同僚およびお客さんからも「付き合って」だの「息子の嫁に」だの、言われる、いや、言われた。第一、彼氏はいる。
なのに、どうして決まらないのか。

多分、タイミングのせいだと思う。


彼の腕はわたしの肩に回されていた。
指先に力がこもるのを感じた、そして、ひとつ、優しいキスをもらった。
淡い雪を思わせる、プラトニック90パーセントの、キス。
そして、おそらくあのとき、何事も無ければ、絶対に「結婚しよう」という言葉も、もらえた筈なのだ!・・・と思う。
ついこの前のデート。


冬の海が目前に広がっていた。
曇り空だったけれど、うっすら日の恵みを雲の間に感じさせる午後のひととき。
わたしたちは、車の中。
ラブソングばかり集めた、洋楽のオムニバスアルバムが、フェイドアウトしたばかりの時間だった。
人影も無かった、まさに、「プロポーズ日和」。
なのに。
なのに、そのとき通りがかった一台の車のせうで、すべてが台無しになった。

いーしやーきーいもー、おいも!

・・・朗々たる声音であった。

そう、ここぞ!、という場面をなぜかものにできないたちなのである。
はじめてキスされそうになった少女時代の放課後も、みつめあった瞬間に吹奏楽部室方面から流れてきた「ぼくわらっちゃいます」で、パーになった。
はじめて最後までいっちゃいそうになったデートでは、ハンドル操作を誤って田んぼに落ちた。
そしてはじめてのプロポーズかもしれない時を、焼き芋屋にジャマされた。

寒林を駆けてジプシーヴァイオリン


いつかはきっと安住できる、と明るく信じてはいるのだけれど。
ここぞ、という瞬間を逃しては、さまよい続ける女なのである。

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