マフラー

2002年12月13日 みじかいお話
マンションの敷地のちょうど中央に、公園がある。
公園、と書いたが、よく考えれば、滑り台やぶらんこ、といった子供の遊具は何も無い。
あるのは、バスケットコート一面と、花壇と、ベンチ。
あと、アナログ面が電光表示の大きな時計。
だから、まあ、広場、なのかな。
ともかく、わたしが住むマンションは、いくつかの棟が、この広場を囲い込むようにして建てられている。どの棟の窓にも、朝日がふり注ぎ、冬日の暖かさをベランダで感じることができるのは、このだだっ広い場所があるおかげである。
さて、昼下がりのことである。
晴れてはいるものの、冬のこと、日の光の勢いは弱く、ベランダに届く日差しも弱々しい 。部屋が東向きなので余計に日光が翳るのが早く感じられるのだろうが、さっき干したばかりというのに、もう蔭に入ってしまった洗濯物が哀しい。ため息をつきながら、室内に取り込む。
物干し竿から、夫のYシャツを外そうとしたときだった。
広場を何気なく見下ろすと、ベンチの一つに、高校生らしきカップルが座っているのが目に入った。
マンションの隣りには、高校がある。そこの生徒かもしれないが、十階のベランダからではよく分からない。
かつて、こんな風に、何となく見ていたら、いきなり(という風に感じた)キスをした「子供たち」がいて、びっくり、というか 、妙な表現だが、恐れおののいたことがあった。
なるほど、自分たちの半径数メートルには、人気は無い、が、ふと顔を上げれば、そこには自分たちを見下ろす無数の窓があるのだ。
そんな場所でキスを交わすなんて。しかも制服で。
でも、帰宅した夫に言ったら、一笑に付された。
「そんなん、今日日、電車の中でも平気でキスしよるで。」
だって。
さて、今日のふたりは、ベンチに仲良く座って、何事か楽しそうに話している。
細かい表情までは見えないが、女の子の大きな手振りや、男の子の身体を揺すって笑っている様子が分かる。
思わず微笑んでしまったのが、ふたりの首に巻かれているマフラーである。
今年のマフラーは、長い。体格のいい若い子たちが、ぐるぐる首に巻き付けて、なおかつ垂らしても腰くらいまであるのを、いっぺんどの位の長さなのか知りたいものだと思っていた。
その長い長いマフラーを、ベンチに並んで腰掛けているふたりの子は、一本をふたりで分け合うようにして巻いているのである。
一体どちらの物なのか、もしかしたら、彼女の手編みなのかもしれない。黄色と濃紺の、見様によっては「阪神タイガース!」という印象の縞模様が、仲良く、ふたりの首に巻き付けてある。
マフラーが長いからできるんやねえ。
別に感心することでも無いのだが、なんだか妙に感動して、しばらくふたりを観察してしまった。

が。
すっかり、洗濯物も取り込み終わり、何と夕食の仕度をし終わっても、ふたりはまだベンチに座っているのである。
「あんたら、カゼひくで。」
思わず声が出る。勿論、聞こえる筈は無いのだが。
もうすっかり日が落ちた。
電光の時計は、そろそろ六時だ。
ベランダは一層冷えてきて、何かもう一枚羽織っていないと、歯が鳴ってしまいそうだ。
いい加減、今日は帰るか、場所を変えるかしたらええのに・・・。
と、思ったとたん、ふいにふたりが立ち上がった。

あ。
そうか。
そういうこと。

そして、わたしは、今度は微笑んでしまった。

女の子がまず立って、マフラーをほどいた。
男の子は大げさに肩をすくめて、寒そうにしながら、ゆっくりと立って・・・。
ふたりの身長差、ここからみても、30センチ以上はある。
あれだけ身長が違うと、ふたりでひとつのマフラーを分け合って歩くのは、無理というものだ。



マフラーを分けあふている南向き


少しでも長くくっついているのには、ああして座っているしかなかったのだろう。
そう言えば、自分にも覚えが無いわけでは無い。
マフラーを半分こにしたのでは無いが、アイアイ傘ができなかった。

夫とわたしは、28センチの身長差がある。

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