転がれば戻らずそこに毛糸玉
これ、あげる。
うちの息子とお揃い、なんて、嫌かな。千香ちゃん。
え?ペアルックで嬉しいって?。そう言ってくれると嬉しい、って言うか、助かる、うん。
だって、そうよ。あたしの手編みだから。
ううん。大したことは無かったの。昔から編み物は好きだったしさ。なんかね、ぼけっ、とテレビの前に座ってたりってできないたちなんだよね。貧乏性。
うちの有也もプレ幼稚園行くようになってさ、少し手がかからなくなったじゃない?千香ちゃんママみたいに、下に赤ちゃんがいるって訳でも無いしさ、かと言ってお仕事、なんて時間は無いしさ。だから中途半端に手が空いちゃって。
だから編んだの。久しぶり。
ううん。有也が生まれる前にあの子の物は編まなかった。
忙しかった・・・って訳でも無いんだけれど。
あ、せっかく来てくれたんだから、お茶煎れるよ。悪いけど、ちょっと有也たち見てて。千香ちゃんに何かしたら遠慮無く怒っていいからさ。
ん?有也なあに。そう。仲良しできるのね。よしよし、いい子だね。じゃ、あんたたちにも何かおやつの用意をしてあげる。
赤ちゃん、よく眠ってるね。
ああ、そうなの。にぎやかな方がよく眠れるのね、安心するのかな。それ、なんか分かるよ。
きっと、つながってる、って確信しながらうつらうつらしているんだよね?。ひとりじゃない、って。バタバタいろんな音の中で・・・。
それにしても、セーターの季節、もうそろそろ終わりかもしれへんね。
来年?あはは、まだいけそうかな。有也も千香ちゃんもミニサイズだもんね。
あ、その虹色はね、もともと毛糸がそういう色なんだ。
まさか。そう細かく色替えなんかしてないしてない。ただザクザク編んだだけだよ。ほんとだってば。
・・・だからね、そんなにお礼言ってもらわなくっていいのよ、ほんまに。
どっちかって言うと、もらってもらうんだから。
それね・・・うん。実は、ほんとのこと言うと、ずっと仕舞ってあった毛糸なの。実家の机の引き出しに入れっぱなしになってたやつなの。
かれこれ八年ばかり。
そう。八年だよ。
分かったかな。そうだよね。やっぱり神戸市民ってさ、少し前の昔を思い出すとき、必ず震災を基準点にするからさ。一種の癖だよね。「あれは震災より前だったから」とか「あれは震災よりは後だったから」とか。
ああ、そうなの。震災のときには神戸に住んでた訳じゃないのね。それは良かったよ。あんな思い、しない方がいいもの・・・できればね・・・そうよ。
ごめんね。
本当のこと言うとね、そのセーター、ほんとはそのとき付き合ってた彼氏にあげる筈だったんだ。でもね。
でも・・・。彼、家が全壊して・・・。
あれが三連休の翌日だったの覚えてる?。わたしたち、前の前の日に会ったの。三宮で映画観て。お茶して、センター街をぶらついた。で、別れ際に、わたし言ったんだ。
バレンタインは期待しててね。
・・って。手編みのセーターを編んでたからね。でも、そのことは内緒にしてたの。彼、すっごく聞きたがってさ、何を期待させてくれるのか、って。もしかして、君でももらえるの、なんてこと言って笑ってた。付き合って三ヶ月だった。まだ、つまりそういうカンケイでは無かったのよ。でもね、わたしも、セーターにあたしをつけてもいいかな、なんて少し思ってたんだ。
好きだったから、ほんとに。
でも・・・終わったの。恋、では無くて彼の命が・・・。
ごめんね。すごくしめっぽくなっちゃった。「アンパンマン」のビデオをバックにまっ昼間に語る話じゃないわね。
でもね。そういういわれのある毛糸だから・・・。いっそ、棄ててしまおうかな、とも思ったのよ。でも、簡単にごみ箱につっ込むのことはできなかった。かと言って、主人のものを編むのも嫌だった。自分のものも嫌だった。そこら辺りの気持ち、分かってもらえるかなあ。
でも、息子になら編めそうな気がしたのよ。
でも、三才児ひとり分では毛糸が余っちゃって・・・だからなの。千香ちゃんのも編んでしまった。
亡くなったひとが着ていたものでは無いのよ、でも、着る筈のひとは亡くなった。それでもいいのなら・・・もらって。
ありがとうね。いやだ、泣かないでよ。子供らがびっくりして・・・違うよ、有也。おばちゃんをいじめたりしてないってば。
あ、でも、変なこと言って泣かせたわけだから・・・。
・・・着せてみてくれるの?。
じゃあ、わたしも着せてみるね。
あはは、ぴったり。まさに恋人どうし。「小さな恋のメロデイ」のテーマなんか浮かんできちゃったよ。
ありがと。
千香ちゃんママなら、きっとこういう気持ち、分かってくれるとは思ったんだけれど・・・いざもらってくれるかって思うと不安はあったよ。だから・・・ありがとう、ほんとに。
そうだね、あの子たちは震災なんか知らない。できればあんな目に遭って欲しくはないし・・・。まっさらの人生、幸せになって欲しいよ。どの子も。
あのさ、気障ついでに言っちゃうと、子育てって命のリレーだと思うんだよね。ひとつの命が消えても、またどこかで生まれて、育って。バトンを渡すみたいに続いてく・・・。
わたしたちさ、今、走ってんだよ。誰かにバトン、渡されてんだよ。
親になるってきっとそういうことだと思うんだけど・・・違うかな。
これ、あげる。
うちの息子とお揃い、なんて、嫌かな。千香ちゃん。
え?ペアルックで嬉しいって?。そう言ってくれると嬉しい、って言うか、助かる、うん。
だって、そうよ。あたしの手編みだから。
ううん。大したことは無かったの。昔から編み物は好きだったしさ。なんかね、ぼけっ、とテレビの前に座ってたりってできないたちなんだよね。貧乏性。
うちの有也もプレ幼稚園行くようになってさ、少し手がかからなくなったじゃない?千香ちゃんママみたいに、下に赤ちゃんがいるって訳でも無いしさ、かと言ってお仕事、なんて時間は無いしさ。だから中途半端に手が空いちゃって。
だから編んだの。久しぶり。
ううん。有也が生まれる前にあの子の物は編まなかった。
忙しかった・・・って訳でも無いんだけれど。
あ、せっかく来てくれたんだから、お茶煎れるよ。悪いけど、ちょっと有也たち見てて。千香ちゃんに何かしたら遠慮無く怒っていいからさ。
ん?有也なあに。そう。仲良しできるのね。よしよし、いい子だね。じゃ、あんたたちにも何かおやつの用意をしてあげる。
赤ちゃん、よく眠ってるね。
ああ、そうなの。にぎやかな方がよく眠れるのね、安心するのかな。それ、なんか分かるよ。
きっと、つながってる、って確信しながらうつらうつらしているんだよね?。ひとりじゃない、って。バタバタいろんな音の中で・・・。
それにしても、セーターの季節、もうそろそろ終わりかもしれへんね。
来年?あはは、まだいけそうかな。有也も千香ちゃんもミニサイズだもんね。
あ、その虹色はね、もともと毛糸がそういう色なんだ。
まさか。そう細かく色替えなんかしてないしてない。ただザクザク編んだだけだよ。ほんとだってば。
・・・だからね、そんなにお礼言ってもらわなくっていいのよ、ほんまに。
どっちかって言うと、もらってもらうんだから。
それね・・・うん。実は、ほんとのこと言うと、ずっと仕舞ってあった毛糸なの。実家の机の引き出しに入れっぱなしになってたやつなの。
かれこれ八年ばかり。
そう。八年だよ。
分かったかな。そうだよね。やっぱり神戸市民ってさ、少し前の昔を思い出すとき、必ず震災を基準点にするからさ。一種の癖だよね。「あれは震災より前だったから」とか「あれは震災よりは後だったから」とか。
ああ、そうなの。震災のときには神戸に住んでた訳じゃないのね。それは良かったよ。あんな思い、しない方がいいもの・・・できればね・・・そうよ。
ごめんね。
本当のこと言うとね、そのセーター、ほんとはそのとき付き合ってた彼氏にあげる筈だったんだ。でもね。
でも・・・。彼、家が全壊して・・・。
あれが三連休の翌日だったの覚えてる?。わたしたち、前の前の日に会ったの。三宮で映画観て。お茶して、センター街をぶらついた。で、別れ際に、わたし言ったんだ。
バレンタインは期待しててね。
・・って。手編みのセーターを編んでたからね。でも、そのことは内緒にしてたの。彼、すっごく聞きたがってさ、何を期待させてくれるのか、って。もしかして、君でももらえるの、なんてこと言って笑ってた。付き合って三ヶ月だった。まだ、つまりそういうカンケイでは無かったのよ。でもね、わたしも、セーターにあたしをつけてもいいかな、なんて少し思ってたんだ。
好きだったから、ほんとに。
でも・・・終わったの。恋、では無くて彼の命が・・・。
ごめんね。すごくしめっぽくなっちゃった。「アンパンマン」のビデオをバックにまっ昼間に語る話じゃないわね。
でもね。そういういわれのある毛糸だから・・・。いっそ、棄ててしまおうかな、とも思ったのよ。でも、簡単にごみ箱につっ込むのことはできなかった。かと言って、主人のものを編むのも嫌だった。自分のものも嫌だった。そこら辺りの気持ち、分かってもらえるかなあ。
でも、息子になら編めそうな気がしたのよ。
でも、三才児ひとり分では毛糸が余っちゃって・・・だからなの。千香ちゃんのも編んでしまった。
亡くなったひとが着ていたものでは無いのよ、でも、着る筈のひとは亡くなった。それでもいいのなら・・・もらって。
ありがとうね。いやだ、泣かないでよ。子供らがびっくりして・・・違うよ、有也。おばちゃんをいじめたりしてないってば。
あ、でも、変なこと言って泣かせたわけだから・・・。
・・・着せてみてくれるの?。
じゃあ、わたしも着せてみるね。
あはは、ぴったり。まさに恋人どうし。「小さな恋のメロデイ」のテーマなんか浮かんできちゃったよ。
ありがと。
千香ちゃんママなら、きっとこういう気持ち、分かってくれるとは思ったんだけれど・・・いざもらってくれるかって思うと不安はあったよ。だから・・・ありがとう、ほんとに。
そうだね、あの子たちは震災なんか知らない。できればあんな目に遭って欲しくはないし・・・。まっさらの人生、幸せになって欲しいよ。どの子も。
あのさ、気障ついでに言っちゃうと、子育てって命のリレーだと思うんだよね。ひとつの命が消えても、またどこかで生まれて、育って。バトンを渡すみたいに続いてく・・・。
わたしたちさ、今、走ってんだよ。誰かにバトン、渡されてんだよ。
親になるってきっとそういうことだと思うんだけど・・・違うかな。
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