あんなに「恋がしたい」と言い続けて来た彼女なのに、久しぶりに見た顔は、とても面やつれしていた。
 恋多きひとであった。
 でも結婚し、子供が生れ、その子供たちもようやく少し手が離れ、安定してはいても、どこか退屈な日常・・・よくある話である。
 冗談半分で、恋がしたい、恋がしたい、と言い出したのはその頃である。もう一度ときめきたい、そのひとの姿を目にしただけで、胸がきゅっ、となるような感覚をもう一度味わいたい、そう言い続けてきた彼女である。
 そして、突然、恋は彼女の上に降りて来た。

 「でもね、向こうはそんな気無いのよ。出会いは子連れのときだったし。」
 「そう。」
 「片想いなの。」
 「そう。」
 「でも・・・分かるでしょ、片想いなのがつらいのでは無いのよ・・・。」

 彼女が、今、最も触れて欲しい指。
 男にしては繊細な細い指。清潔な爪にふちどられたその十本の指に触れられることがもしもあったとしても、それでどうなると言うのだ。
 恋多き女であったから、指の順番は知っていると言う。
 髪から肩へ、胸へ、そして・・・でも、そこでどうなると言うのだろう。

 どうにもなりはしない。
 それだけのことだ。
 
 
   朝顔の日に生れて日に散らされし

 朝顔は、夜明けの気配を感じて花開くけれども、その日の光によって直に身を滅ぼされる。
 人妻もまた、恋の気配を感じて想いはわきあがるけれども、その恋は必ず滅びへと向かう。
 それでも、恋へ傾いていくのは、どうにもならないのだろう、彼女の瞳は、それでも輝いていた。幾分、暗く。
 

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