蝉去りて蜜月終へし木々となる

 残暑が続く。
 けれども、あの蝉たちの声は、もうしない。

 雨が多かったからだろうか。
 木々の若葉はいつもの年以上に葉を茂らせて頑張っていたように思う。それは、短い夏の光を少しでも多く取り込むための作戦だったのかもしれないが、雨が上がるたびに見上げるケヤキの、うちかさなって空を覆う緑色の眩しさに圧倒されていた。そして、その若葉の生い茂った中から、夥しく降り注いでくる、蝉の声、声、声。
 

 あの蝉たちはどこに消えたのか。
 そして毎年、不思議に思うのは、夏の終わりを・・・つまり自分たちの生きていられる季節の終わりを、蝉たちはどんなかたちで知るのだろう、ということだ。
 専門のひとに聞いてみたことは無いのだが、誰かが、それはやっぱり気温の変化だろうと話していた。
 朝夕の涼しさこそ、蝉に季節の終わりを知らせるのだろうね、と。
 しかし、こうも毎晩寝苦しい夜を重ねていると、果たして蝉を納得させられるほど、気温は下がっているのだろうか、といぶかしく感じる。

 蝉の大合唱の消えた庭で耳をすますと、風の音。
 それは、夏よりも半音高い。乾いた葉っぱの群れの、奏でる風の音。木が水分を無くしていくのが日に日に分かる。風の音で。
 蝉たちのもらっていた樹液も、もしかしたら日々、薄らいでゆく、そんな気がする。
 蜜月が終わったのだ。蝉と木々との。

  

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