目の前に、その指があるのに、ふれることなんか思いもよらないの。みつめるだけ、なんだよね。

 すぐ目の前に、あるのに?。

 そう。思い切って手を伸ばせば、もしかして何かが、想像もつかない何事かが起こるのかもしれない、でも、だめ。だってその「想像もつかない出来事」は、以前は絶対に、ときめくこと、を意味していたんだけど・・・。

 今は?

 今?うーん、冗談で済めばいい方ね。へたしたら逃げられるか、訴えられるか。

 まさか。

 でも、そういう位置だよね、正直。
 つらいけど。

 ・・・そこでわたしたちはしばらく黙り込む。どこかで、虫が鳴いている。小さな虫たちの、恋歌。

 そういう、位置。
 位置、って。
 位置。はっきり言えばトシよ。年齢だよ。

 あの、小さなキャンパスで毎日話したり、ランチしたりしてた頃、わたしたち、何につけても、自信が無くて。
 そうだね。
 鏡を見てはため息ついていたけれど。
 でも、それでも、片想いの相手にアクションすれば、もしかしたら物語がはじまるかもしれない、なんて夢を見ていたのだから、結構お気楽だったのかもしれない。

 今は・・・。
 
 もういいよ、やめようよ。カナシイよ。
 
 でもね、わたしたちと同じ位か、それより少し上の女が「おばさんって言われるのはいや」って言うのを聞いても、なんか聞き苦しいんだよね。
 うん。
 「おばさん」って言うのなら、そうなんだろうよ、って大きく構えてやってもいいかと。
 ふーむ。
 だけどさ、「おばさん」て言われたくない、って言うやつに限って、おばさんだったりするじゃん。
 って言うか、おばさんだからおばさんって言われたくないんじゃん。
 ははは。

 問題は、「彼」がわたしを、どう見ているかってことなのよ。同じ位の年なんだから「女」で見てくれているのか、それとも「同年齢でも、女ならこの年ならもうおばさんだよな」って思っているか。
 うん。
 あーあ、偶然を装って、手がふれて、なんてのは、もう昔話なんだしなあ。
そーだよ。第一、今の若いコなら、自分から彼の手を握っちゃうかも。
 うーん、若いうちなら、それもまた可愛いけど。
 そうだね・・・。おばさんに触られたらね・・・セクハラ・・・。
 若いコならサービスで、おばさんならセクハラか・・・。
 うん・・・なんかはじめて、若いOLの部下を抱えるおじさんの苦しさが分かった気がするよ。
 

   宵月にうつくしすぎる指が罪

 
 
 でもね、ほんとうに、きれいな指なのよ。男のくせに節くれだってなくて。あの指を自分の全身に泳がせることのできる女がうらやましいよ、本当に。
 
   

 
 
 

 

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