あのね、「セックスをやって、やって、やりまくりたい」って書いてあったの、読んだことある。森瑤子サンの「女ざかりの痛み」だったかなんだったか・・・。
  あの気持ち、なんとなく分かる気がするの、街を歩いていても男に誰ひとり気にされなくなる前に、女としての快楽をできるだけ味わっておきたい欲求、って言うか、味わっておかなければ、みたいな焦燥感。

  ふうん。わたしなんか、男の人にナンパされたことも無いからよく分からない・・・若いときから気にされなかったみたいな気がする。

  そういうんじゃないの。うーん、たとえばね、ガスか電気か、まあ、なんでもいいけどそういうものの調子が狂ったりしたときのサービスマンの対応とか、重いものを買ったときの、男の店員の扱いかたとか、そういうこと、考えてみてよ。
 若いときと、今とでは、あきらかに態度が変わってきてるじゃない。故障の修理なんか終わっても、えんえん説明してくれていたのが、今じゃ知らん顔して直して、お湯が出たらさっさと帰る。

  そりゃ、景気がよくないから、どこも人手不足で忙しいのかもよ。
 
  まあ、そうかもしれないし、そう思いたいけどさ。買い物なんか、ちょっと重いもの買ったら、「お車まで運びましょうか」って言ってくれていたのが、最近じゃ、おばはん、このくらい平気だろ、みたいに、お金払ったら知らん顔。

  それはあるかな。わたしもこの前、子供の幼稚園の運動会でフライドポテトを買ったとき、係の男の先生ったらさ、20代のママには紙袋ふたつあげていたのに、わたしともうひとりのママには、無し、だったんだよ。いっしょに買ったのに、すっげー屈辱的だった。

  そうそう、そういうの、そういう扱いは、これから増えることはあっても減ることは無いわけよ。

  わかっているけど・・・なんか、さびしいい。
  それに、なんで、こんな話になってんのよ。憧れの君の話に戻してよ。

  それで電話してるんだったね。うーん、でもね、そういう「おばさん度数」がどこまで自分は上がっているのかって考えると、アプローチなんかとんでもない、って話だよ。

  だから、ひたすら指をくわえて、指をみつめているというわけなんだね。

  そう。
  
  ・・・男の指は、アレに似ている。

  えっ。

  というのも、森瑤子サンにあったよ。

  あ、そういや、そうだね。やだ、なんかなまなましいよ。でも・・・言えてるかも。

  なんか、たくさん想像したな。うらやましいこと。
 
  いや、そんなことは無いけど。でも、彼のは・・・少し。

  いやだ、そっちの方がむちゃくちゃ、なまなましいよ。大体、こういうことを昼日中からしゃべっていること自体がもう、おばさん度数かなり上がるよ。
 
  そうかな、いや、そんなこと無いって。短大のときの昼練のとき、「カラダのやわらかいオトコはひとりフェ・・・ができるのかな」ってつぶやいたの、誰だった。

  ひとりフェ・・・って。いやだ、もう。

  あんたが言ったんだよ。

  あ、あのときにはまだ経験してなかったから。
 
  何を。

  何って、イロイロなアレコレ・・・もう、そういうこと畳み掛けるのも、すげえおばさん指数高め!。
 
  あははは。
     

    
   吾亦紅小指に落とす紅のいろ
  

     
  ・・・同じ自分の話でも、若いときと今とでは違うってことか。
 
  ・・・まだもう少しは現役のつもりなんだけどね。

  うん。「おばさんって呼ばれたくない」って、十分おばさんのやつらが言ってる、ってさっきも話したじゃない。

  そうだね。老け込まずに、恋しよ、恋。
 
  うん。
  
  

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