あなたは、ホテルのツリーを見ましたか?。
 
 夕まぐれの川沿いには、いくつものオーナメントが、きらめいていました。
 星型もあれば、トナカイもあります。
 金色もあれば、青もあります。
 明るい昼間の時間には、ただの銀色の骨組でしか無いそういう物たちが、日が落ちるとあんなにきらきら輝くものだということを、わたしはなぜだか不思議な気持ちで実感しています。

 そうして、そういう光たちの向こう側に、あのツリーはあるのです。

 ホテルのレストランの、窓際。おそらく高い天井の二階部分まであるだろうと思われる背高のっぽのクリスマスツリー。幅も広くて、多分腕の長いあなたでも、抱きしめたら抱えきれないことでしょう。
 レストランの窓と、川沿いの小道の間には、繊細な木々や草花が植えられていて、だからそのツリーの姿全体を目でとらえることはできません。
 でも、それでも、ほっそりした竹や、しなやかなムラサキシキブ越しに、青いレーザー状の光がこぼれて来ます。しばらくすると、青は白に、そうしてシルバーに、と、その繰り返し。
 わたしは、お夕食の材料の入った重いバッグを抱えたまま、しばらくその光で遊んでいました。
 黙ってみつめてから、目を閉じてみるのです。
 そうすると、隣にあなたがいてくれる気がするのです。
 
 あなたは、わたしよりもずっと背が高いから、もしかしたら植物たちにじゃまをされずに、もっと上まで見えるのかもしれない。
 もしかしたら、わたしに、どんなふうに見えるのかお話してくれるかもしれません。
 いえ、あるいはそんなに優しくは無くて、自分なりに無口なまま、じっと光の束に目をやっているだけなのでしょうか。ホテルの中に入り、お食事をすれば、もちろん、ツリーの輝きは身体じゅうに降り注ぐことでしょう。でも、そんなことは、想像することもできません。
 華やかな街で、華やぐ人たちとは、今のわたしは遠すぎますから。
 着飾った姿が絵になる街で着飾ることができないのと、着飾っても仕方の無い場所で着飾っているのとでは、どちらが不幸な女なのでしょう。

 あなたとは、ほとんどお話したことはないから、楽しい空想も、うらさびしい幻想も、中途半端で消えてしまいます。

  
   きみだけのツリーになるといふ願ひ

 一度だけでいいから、みつめてみてください。

 ここで働いているのに、街であなたをみかけることはありませんね。
 何か決まり事でもあるのか、それとも忙しすぎるのかしら。
 この川の、すぐ近くで一日の大半を過ごすあなただというのに・・・。
 
 同じ場所で、同じ光を瞳に映せるということだけでも、今のわたしには大切な願い。

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