春の日をミモザサラダに振りかけて

 友達とのランチタイム。

 テーブルの上には、さくら色の縁取りの施された、清潔なお皿。
 フランスパンと、サラダと。
 キャベツのスープ。チーズとパセリを浮かばせて。

 メインデイッシュは、恋のお話。

「結婚してからの方が、いっぱい恋してるよ。」

 ・・・え?。

 19歳で花嫁になった彼女は、事も無げに、そんなことを言って、笑う。子供たちはもう独立している。
 「ダンナ、っていう、帰る場所があるから、恋ができるんじゃないの。」
 
 ひとりきりのときには、恋をしても、失うことが怖かった。
 でも、結婚してからは、落ち着いていられる。
 だって、とりあえず、ひとりの男・・・夫・・・は確保してあるのだから。

 ・・・と彼女は微笑む。というより、哂う。

 「信じられない、って顔してるね。ダンナさん、裏切ることなんか、考えたこと無いんでしょ。」

 気持ちでは、裏切ってるよ。

 とは、言わない。

 ただ、小さく、そんなことは、これからどうなるか分からない、とつぶやきながらパンをちぎる。

「相手にのめりこんだら、どうするの。」
「それは無い。既婚者を選ぶから。相手も心得てるから。」

 つまり。
 家庭のある者同士が、あくまで、日常にスパイスをかけるために、恋をするのだと。
 言ってみれば、昼間、愛人に抱かれても、夜は平気な顔で、夫に抱かれる、そのくらいの「心意気」がなければ、人妻は恋なんかしてはいけない、ということである。

 まるで、勉強会だ。

 水のグラスの向こう側に、レストランの灯り。ヴァレンタイン仕様か、ホワイトデイ仕様か、おそらくそのどちら向けでもあるのだろうが、ピンクのハート型の切り紙細工が被せかけてある。
 ぼんやり眺めながら、ため息。

 想うひとは、こちらの想いなど、夢にも気が付かず。
 なのに、夫を拒む自分が、ほんとうにおバカな子供に思えてくる。
 夫も、愛人も。
 欲張りにならなければ、か・・・。

 無理だ。

 あるいは、すきになりすぎたかな。

 彼女は、終始、嫣然と笑みを浮かべて、いかんなく食欲を発揮し、わたしは、その前でなぜだか妙に萎縮して、ランチタイムは流れて行った。


 

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