開花前夜の桜
2004年3月5日 内科医レインと人妻フィーネの物語ーツ・ナ・ガ・ルほろ酔ひの開花前夜の桜かな
春めいて、日暮れが遅くなって、お日さまはうっとりと西の空で光を舞わせながら、何かたくらんでいる?。
「夕暮れ時の空の色が、カクテルみたいだよ。
ピンクと、ヴァイオレットとが、リキュールめいて目に映る。
とろけそうに甘い色だよ。」
・・・と、メールを打つ。
「そうだね、こんな夕暮れに何か似合うカクテルがありそうだよね。でも、きみはお酒は呑めるのだった?。」
「いいえ。
体質ですから、仕方ありません。お付き合いできなくて残念だけど。」
「そう。じゃあ、ひとりで酔うことにするよ。」
・・・小さな画面の整った文字だと、とても味気なく思える返事。このまま引き下がるのは、ちょっと悔しいかな。
夕暮れに吹く風がとても甘いのは、なぜだか知っている。
冬の間、丁寧に折りたたまれていた桜の花たちを、目覚めさせるためなんだ。
だから、ほら、よくみると桜並木の木はどれも、どこか、うすく発光しているでしょう。
まるで、酔っ払い始めたかのように。
「お酒を呑ませれば、口説けるとでもいうのなら、少しは無理にでも付き合うんだけど。」
仕掛けてやった。
「うん、呑ませれば口説けるよ。」
「呑めないと口説けないってことでしょ?」
「そんなことは無いよ。・・・試してみる?。」
液晶だけで、恋を動かせるかしら。
夕暮れの甘い風の中、ほろ酔いの、桜の下の、駆け引き。
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