ホワイト・デイ 薔薇と吐息を贈られて

 バレンタイン・デイの句で、
     チョコ渡すはにかみ笑ひ 白き梅
 と書いたら、
 「これは、ホワイト・デイ?」
 とたずねられて、ああそうか、その方がいいかもね、と思った。
 「はにかみ笑い」は、少年の方が、絵になりそう。
 しかし、チョコ、ね。

 バレンタイン・デイには、チョコレートを贈る、ということに、何となくなっている。「正統派」はチョコレートだろう。
 じゃ、ホワイト・デイは?。
 昔はマシュマロ、と言われていた気がする。が、マシュマロをお返しにいただいたことは無い。
 そもそも、決まっていないのかもしれない。となると、返す方は、あれこれ考えなきゃいけないってこと、ですね。
 
 近所のホテルのショップには、ホワイト・デイ向けのデイスプレイで、薔薇のジャムだとか、色とりどりのマシュマロを透き通ったボトルに詰めたものだとか、ラベンダー色の花びらにしか見えないバブルバスだとか、そういったものが、高々と盛られたアートフラワーと一緒に置かれている。
 それだけ見ていても、お返しは何、と決められてはいない印象である。

 娘のもらってきた「お返し」も、男の子のお母様が、あれこれ考えてくださったのだろう、キャンデイにかわいらしい文具が添えてある。小学校に上がるから、ということだと思う。

 銀行に勤めていた頃は、融資部署で、男性が多かった。バレンタイン・デイは、そういう意味では大変だったが、ホワイト・デイは、なかなか面白かった。
 「選べるお返し」という趣向だったのである。
 融資係の女子行員数名が、それぞれ、包みを選ぶ。包み紙は同じで、外からは分からない。が、中身はみんな違うから、大きさも、重さも、それぞれ違う。
 人妻で同期のリオちゃんは、一番大きくて重いのを選んだ。
 中身は、梅干し。
 わたしが選んだのは、「プーさんのテイッシュケース」であった。今も部屋に置いてある。

 これもあの時代。
 恋人、と言えないような、それでも時々は会う、という関係の、男がくれたお返しは、大きな薔薇の花束だった。
 それを、ベッドから見える角度に置いて、眠りに落ちるときと、目覚めるときと、自然に視界に入るように飾った。
 部屋には、甘くてどこか虚ろな香が鎮まっていた。
 
 薔薇と眠り、薔薇と目覚める。息が詰まりそうに濃い、存在。それでも日が経つにつれて、花弁は開き、花びらは色あせ、床に破片となって散り始める。
 いつかは、失われるから、美しく、甘い。気付いて、不安になった。

 そしてその恋は、それから数ヶ月で、終わった。

 

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