原石をひとつずつ抱き卒園す

  リーコ、卒園。

  そもそも赤ちゃんの頃から、保健所で厳しくチェックされるような子供だった。発育が遅い、言葉が出ない・・・。三年保育にしても、大丈夫かな、とぎりぎりまで悩んだ末の入園だった。
  入園式では、年中組のお遊戯の、恐竜のコスチュームがこわい、と言って大泣きしていた。
  小食で、給食が多いと泣いていた。お弁当も少なめにしないと食べ切れなかった。
  言葉も相変わらず遅かった。
  「こいのぼり」の唄は、「おとうさん」のところしか唄っていなかった。
  
  それが三年経って、みちがえるほどにたくましくなった。
  鼓笛で、物干し竿なみのガードを振り回して歩けるほどに、発表会で、全曲を一人でも歌って踊れるほどに。給食をクラスで二番目に食べきれるほどに。

  わたしは、何もしなかった気がする。
  
  ただ、立ち会っていただけ。

  日々、そのときにやらなきゃいけないことに追われていただけ。ただ、それをこなすことに必死だっただけ。
  見えない手が、たぶん助けてくれていたのだろう。
  丈夫で、三年を通して、欠席したのは五日ほど。
  幼稚園が、大好きだった。
  先生に、思い切り甘えられる子で、お迎えに行くと、必ずと言っていいほど、誰かの先生に抱っこされているような子供だった。しあわせだったね、三年間ずっと。

 
  卒園式で、いつもはやんちゃばかりしている男の子たちが、しきりに涙をぬぐっているのが、胸に響いた。
  
  人生は、さよならの繰り返しなんだよ。

  でもね、さよならしたくない、と思えることに出会えることは、とても大きな喜びなんだよ。

  自分にも、言い聞かせて。

  春風が、いっぱいに園庭に吹き渡っている。
  卒園の子たちの胸につけられた花が、微かに海風に揺れていた。
  あなたたちは、ダイヤモンドの原石。
  胸にひとつずつ、備わっているのが見える気がする。
  これからも、たいせつに守っていきたい。そんな、殊勝な母親になったひとときだった。 

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