人魚風 霞のヴェールかざしゆく

 
  きのう、娘が一枚、自分で書いた誰かの似顔絵を持って来て、
  「せんせい、だいすき、って書いて。」
  って言った。
  さすがに泣きたくなった。

  ごめんね、残念だけど、それは渡せない。こっそりごまかしておいて、後で捨てるしか無い。

  ママもね、「せんせい、だいすき。」って言いたかったんだよ。ほんとはね。だけど、言えなかった。

  最後まで、伝えられなかった。

  雨上がりの空を、うす青い色が彩り始める。
  薄墨色の雲が、風に大きく押しやられて・・・。
  シルバーカラーの人魚は、透明な瞳でわたしを見下ろしながら、大きく広げたしなやかな両腕にヴェールを掲げて高く、高く、雲を、追う。
  
  じっと見上げていると、小さな女の子になったみたいだよ。
  人魚の像の上を、流れる雲をみつめているだけで、時間が逆流するの。
  
  晩夏の黄昏時、降りてきた恋を、早春の風の中で空に返す。

  さよなら。
  わたしは、貴方を、卒業します。

  

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