青草の苦き悩みの多きこと

 嫌いなやつの死を願ったことなら、ある。
 交換日記に思い切り悪口を書いていたことも、ある。
 そいつの、少しばかり短く切りすぎた前髪をあざ笑い、好きな男の子にからかわれて、ぶつ真似をするときの、にやけた表情をさんざんバカにした。
 わたしの書く小説には、彼女だとあからさまに分かる悪役が登場し、周りの女の子たちは、別に彼女とうまくいっていなかったというわけでもないのに、その小説を支持してくれていた。だから、図に乗って、バシバシ書いてやっていた。
 
 小学校六年生の頃である。

 あのときのわたしと彼女を見て、担任の先生は「仲が良い」と判断していたと思う。いっしょに帰ることが多く、放課後も遊んでいた。
 そして、わたしは彼女のイヤな部分をつぶさに観察し、嫌だな嫌だな、死んでくれないかなと毎日思いながら、交換日記を悪口で埋め、小説の中で彼女を失恋させていた。

 長崎の事件を知って思った。
 
 なんでわたしは殺さなかったのだろう。

 そして、なんで殺されなかったのだろう。

 わからない。

 ただ、あのとき、彼女にケガをさせるようなことをしたり、皆の前で追い詰めたりしたら、自分に不利だと思っていた。
 死んだら誰もが天使扱いされるのだ。
 彼女が死んだら天使になってしまう。
 あいつが天使なんて絶対に気にいらない。

 悪いのはあの子なんだよ。
 だけど、あたしが殺したら、あたしだけ悪い子って扱われるじゃん。
 それは嫌、絶対に嫌。

 そうだ、だから殺さなかったのだ。それだけの理由だ。

 
 ・・・娘が二人、いる。
 命の大切さ、とやらを教えることはもちろん大事だ。
 が、「殺したい」という少女期の感情を押さえ込むのには、もっと現実的な教育・・・といってわるければ、現実的な手段を教え込む必要がある。
 たとえば、人殺しをして捕まったら、それほどの賠償金を支払わなくてはいけないか、だとかね。
 現実に思春期を乗り越えるって、そういうことなんじゃないだろうか。
 そしてそれはもちろん、それは親がするべき仕事である。
 

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