台風
2004年9月6日 ニチジョウのアレコレ母の慟哭 渦巻けば 台風に
やりきれないことが、多すぎる。
ニュースを観ていて、画面の悲惨さに耐え切れずに、テレビの電源を切りたくなるようなことが、多すぎる。
しかもそういうことに、慣れていく自分が赦せない。日常の中で、他人事のようにアイロンなんか掛けながら、誰かの悲しみを眺めているなんて。
・・・かと言って、何が、できる?。
暴風は、大量の海を巻き込んでやって来るらしく、人工島を塩まみれにして通りすぎていく。
窓も、自転車も、看板も、クルマも、そして、植物たちも、
瞬く間にいっぱいの塩を浴びることになる。
台風一過。
まだ熱風の余韻を残して、ぎらつく朝日の下、砂粒のような白い粒子が、そこかしこに張り付いて、粘着質の煌きを放っている。
紅葉を待たずして、立ち枯れている木。病葉が、茶色に乾いて空虚に道路を滑っていく。いつもの年なら、赤く燃え立つような命の果ての輝きを見せてくれる葉たちの群れが、力尽きて大量に、枝から離れて死んでいく。
塩の、せいで。
それは、もちろん海の中にしまわれていた塩分のせいなのだと、分かっているけれど。
もしかしたら、この小さな結晶の一粒が、あの、ニュースの画面の中で慟哭していた、やせた母親の涙の一粒だと、そんなふうに感じられてしまうほどに。
・・・やりきれないことが、多すぎる。
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