星月夜 吾の内にも潮の満ちて
     

  あふれそう・・・。

  声がこぼれた。
  身体をよじって逃げようとしたことが、むしろ逆に押さえつけられてしまう結果になる。
  男と女って、いつもそうだ。
  そうして、そういうパラドクスが、なぜだかいつも、刺激になる。もちろん、適度であれば。

  内科医の指は、外科医のそれとは、違うのかもしれない。

  肌に吸い付くような感触があるのは、生まれつきあなたの手のひらが大きくて、分厚いせいもあると思う。だけど、触れることで、瞬時に何かを読み取ってしまう力がその手に宿っているのは、恐らく、仕事のせいだろうと思う。
  すばやくわたしの中にすべりこんで、瞬く間にその部分を探り当てる指先。
  そのままそこにとどまって、痛くも無い、かと言って、頼りなくもない力を加えながら、少しずつ、少しずつ、襞を開いていく。
  声が漏れる。
  つらい。
  思わずあなたの耳を噛む。
  だけど切ない吐息は、あなたの耳から全身に送り込まれてしまったみたい。
  
  男が興奮していくのを感じるのは、好き。
  自分が、例えようもなく求められているみたいな気持ちになる。それが、猛獣の食欲に近いものであっても、この瞬間、激しく必要とされているということが、わたしを慰めてくれる。

  あなたの左手は、わたしの腰を押さえつけて、右手の細かい仕事を助けている。腰はもう揺れたくて仕方ない。それが、逃避願望なのか、接触願望なのか、分からなくなってくる。
  中指と薬指だろうか、二本の指。そんなに激しく動かさないで。
  さっきよりもかなり乱暴にいじられているはずなのに、濡れているからか、痛みはまったく感じられない。
  夢中であなたの性器を探す。そして、それが大きく、いきり立っていることを知って、思う。ハヤク、イレテ。
  口には、出さない。
  出せない。
  荒い息遣いだけが、空間いっぱいに漂う。

  そして、突然、中指が探り当てた。
  わたし自身が知らなかった場所を。

  ・・・あふれる・・・。

  いけない、と頭の中で思った。けれど、抗えない。例えようも無い、解放感。

  ようやく、あなたの悪戯が終わる。そして、わたしは、あなたの、きれいな二重まぶたの瞳が、欲望に潤んでいるのをみつめてから、足の付け根へと口を沈めていく。
  

  ねえ・・・。
  あなたにも、潮を感じる・・・。
  涙もしょっぱいよね?
  汗もそうだよね。
  もしかして、身体の中は、潮が満ちているの? 
  ヒトはみんな、潮を抱えて生きて、いるの?

  そして、男と女は、満ち潮を繰り返しながら、新しい命を作り出すんだね。ほんとうは、そういうものなんだよね。これって。

  だけど、もちろん、そういう結果になれないことは分かっていて、だから余計にこの瞬間だけを味わいつくしたくて、何もかも忘れるほどに、みだらになって、いく。

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