背徳は紅のいろして桜蘂

  葉桜の季節。
  桜の花びらが降りしきる駅のホームで電車を待つ。
  風の手触りが優しくなった。
  若葉の季節が近い。

  木々の枝から柔らかな葉が萌え出すころ、なぜか毎年、不安になる。
  さかんに伸びて、日々濃くなる緑に生きる力を吸い取られていくような。
  春の始まりには穏やかに感じた花々の香さえ、この季節には濃厚で息苦しくなる。

  桜は花びらを地面いっぱいに散り敷いてのちに、今度は桜蘂をふりまいて、わたしの心を波立たせる。確実に時は流れ、花も実もいつしか無になる。
  わたしが、無になるのは、いつだろう。

  背徳と呼ばれる行為でも、貫き通せば果実になるはず。
  果実になる前に腐らなければの話だ。この調子では、実る前にわたしが消えてしまうかもしれない。
  
  花の終わった枝先に、無数の紅色の尖端。
  今日は、桜が恐ろしい。

  


  

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