東京DOLL

2005年9月23日 読書
 読もうと思ったのは、彼が、ところどころでわたしを思い出す、と言ったからだ。
 その理由が知りたいと思った。
 
 いろんな読み方ができる本である。
 とりわけ「お金」に軸足をおいて筋を追うかどうかで、評価はずいぶんと変わるだろう。
 わたしは、この物語を、作者が東京に捧げたファンタジーだと思いながら読み進んだ。
 
 ヒロインは、ゲームの進行役をつとめる妖精のモデルとして登場する。「人形」ということばは、そこから引き出されている面も大きい。
 物語の中で、彼女は東京のあちこちに置かれ、自分自身と街とを最大限に彩る。
 隅々まで人間の手が入った空間では、人の手が入っている故に生命のリアリテイが感じられなくなるものだ。わたしは人工島に住んでいるので、その無機質な落ち着きの無さを実感として知っている。だから、誰かの演出が確実に施されている空間で躍動する彼女の姿はまぶしく、また痛快に感じられた。
 人工島のあちらこちらに現代彫刻が置かれているのだが、わたしはそのひとつひとつに、物語を捧げようと試みたことがある。そんなことを思い出した。彼女は、リアルな生き物の世界と、洗練という名で生を拒否した世界とをつなぐ、巫女のような存在なのだ。設定自体が「境界人」なのに、その上、彼女にはある特殊な能力があるときている。

 わたしは物語の中で、彼女がふたつの世界ーそれは、「リアル」と「バーチャル」という表現も可能なのだけどーを行き来するのを見守りながら、最終的に、このどちら側に身を寄せるのか、そればかり考えていた。
 そして、もしかしたら作者も、そのあたりで少し、物語の収束を揺れ動いたのではないか、などと想像したりもする。

 もちろん、普通のラブストーリーとしても楽しめる。本来はそうやって向き合うたぐいの物語かもしれない。
 わたしもある部分で胸がいっぱいになり、彼にそこを抜書きしたメールを送った。すると、相手が同じところで引っかかっていた。そして二人は納得し、その部分こそが本の隠れたキーワードだと指摘しあった。
 でも、そこが結末とはリンクしていないのである。リンクしていない部分なのに、そこは熱い真実を含んで重い。これほどの作者が平熱ではない文章を、結末とかみ合わない表現で組み入れる理由がわからない。あるいは、わたしが何か見落としているのだろうか。

 落ち着かない気持ちにさせられる本である。
 だけど、この曖昧さがわたしは割と気に入っている。

 彼は「ヨリ」の中にわたしを見たという。
 「入れ物」は違うが、「入っているもの」は酷似していると、それはわたしも認める。
 それは、すなわち、わたしがずっと追いかけてきた「現実」と「非現実」の境目についての物語なのだから。

 

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